今月の記事 ピックアップ  2003.8
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シリーズ12
かかりつけの靴屋さん
(カジュアルモチヅキ)(静岡・静岡市)


“和”の空間で接客。個々に合わせた靴選びと補正加工で快適な歩行を提供

相談室に入ると囲炉裏がある
 JR静岡駅から北方向へ車で約15分、静かな住宅地の中に、「かかりつけの靴屋さん」はある。8年前にオープンし、今では県内外に約3000人もの顧客を抱える。
 オーナーは望月孝志さん。80年に父親のサンダルメーカーを受け継ぎ、その後は弟の洋二さんと二人で経営していた。しかし、工場の後継ぎがいなかったことと若い世代と競合していく危機感から新しい方向を模索する。
 そして足と靴の科学研究所(愛知・名古屋市)に通うように。
「足底板までやれる」というカールハインツ・ショット講師の言葉に背中を押されてオーソペディとコンフォート専門店へ業態転換した。



仮縫い用の靴は60足ほど

●宣伝は行わず、口コミだけでお客が集まる
 オープン時には「3〜5年は我慢しよう」と決め、チラシなどの宣伝を一切行わなかったが、お客は口コミで増え始めた。テレビや新聞で取り上げられたこともあって、2年目には顧客数が2000人に。
 サンダル工場を手作りで改装した店は工房と相談室からなる。大通りを一本入った小道沿いに工房が建ち、その少し先の斜め向かいに相談室がある。そのため来店客はまず工房を訪れることになる。ここでは靴の補正から加工、足底板の製作などが行われ、専用の機械と材料が置かれている。地場産業でもあるサンダルメーカー時代の経験から、良質の材料を仕入れることができるのは強みである。
 計測やフィッティングは相談室で行われるため移動することになるが、その際に歩行を観察する。
 20坪の相談室は漆黒の柱がある和風のたたずまいで、入ってすぐにある囲炉裏が印象的だ。靴売場というよりは、旅館のよう。お客は靴を脱いで上がる。手作りの椅子に腰をかけてもらい、フットプリントを採り、足各部の関節の動き、脚長差の有無などを調べて、痛みや変形の原因を突き止める。ここで得たデータは一人ずつ専用の封筒にまとめて保管される。

入って右の部屋は子供遊び場を兼ねた接客スペース


2年前から店の奥に英国式フットケアサロン「イーハトーブ」(完全予約制)。しほみさんが担当する

●店頭商品は「仮縫い用」。お客の8割が補正加工



フットプリントなどの計測キットと、仮縫い用のヒール、アーチサポートなど。


オーナーの望月孝志・紀久代さんご夫婦と、弟の洋二・しほみさんご夫婦。
 靴は昔の米びつを再利用した什器の上に。主なブランドは整形外科靴で「ショットシューズ」「フィンコンフォート」「ゾリドゥズ」「アリス」「メフィスト」、国産の「フットライフヤマモト」など。これらは「言わば仮縫い用の靴」と孝志さんはいう。
「お客さんの8割は外反母趾や脚長差などの問題を抱えており、何らかの加工が必要。並べているのは試しばき専用の靴です」。
 補正用のヒールやアーチサポート、ロッカバーなどもサンプルが用意されている。これらを必要に応じて靴に当て、室内だけでなく外でも試しばき。補正後の効果をその場でじっくり体感することができる、とお客の反応は良い。
 「我々の仕事は物理的なもので、痛みを逃がすように手を加え、はけないものをはけるようにすること」と孝志さん。
 接客時間は1時間程度。ここでの調整に基づき、工房で洋二さんが中心となって靴の補正や足底板の製作し、修理も行っている。商品がお客の手に渡るのは翌日か、もしくは郵送となる。
靴の中心価格帯は2万円代後半。別途補正料金がかかる。オーダーの足底板だと2万8000円ほどだ。

●9割がリピーター。病院からの紹介客も
 客層は40〜70代が中心。9割がリピーターとなり、少なくとも2、3回と来店するというのだから、技術力の高さがうかがえる。
 「痛みが和らいでくると、2足目にはおしゃれ靴が欲しくなる。はく時間の長さによって使い分けるようにすすめています」(孝志さん)。できるだけ長く愛用してもらうため、半年に一度葉書を送り、こまめな点検をすすめている。
 足の悩みは大人だけのものではない。重度の障害を抱えた子供が県外から訪ねてくることも。成長に応じて足底板の製作や靴の補正を行う。ダウン症の子が歩けるようになり、病院から呼び出しを受けたこともある。最近では病院から紹介客も増えており、店名の通り「かかりつけの靴屋さん」として広く信頼を集めている。
 将来は洋二さんの息子さんが店を継ぐ予定。既に義士装具士の資格を持っており、現在は靴の勉強中とのことだ。


▽かかりつけの靴屋さん
静岡県静岡市田町1‐53 
TEL 054‐253‐8424
URL:http://www.s-cnet.ne.jp/~ggq03051
お勧めの「ショットシューズ」


<工房内>最優先しているという修理では、持ちこみが午前中であればその日中に、午後であれば翌日の午前中には直してしまう。せっかく調整した靴も、ソールが減ったままで歩行を続けると正しく歩けないだけでなく、足や腰に負担がかかってしまうからだ。