今月の記事 ピックアップ    2003.9
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連載9



キャリアのニーズも取り込んだ売場に増床


 4年前に「山の手の洗練」をコンセプトに全館大改装を実施した東急百貨店東横店。婦人靴売場は場所、規模、MDともに生まれ変わった。1階から4階に売場は移り、それまで100坪だった売場面積は130坪(実行面積)に増え、ミセスだけではなく、トレンドを重視するキャリア層をもターゲットとして設定した。
「おばあさま、お母さま、お子さまの3世代の楽しく買い物ができる売場を目指した」と話すのは、服飾雑貨婦人靴マネジャーの鈴木正秋さんだ。
●顧客満足のポイント

・デザイン性と快適性の両方を求める顧客のニーズに応える

・積極的な情報発信で、トレンドを先取りし、売場に反映する

・顧客の信頼に応え、足に合わない靴は勧めない「勇気」を持つ
服飾雑貨婦人靴マネジャーの鈴木正秋さん。「ここ1、2年でキャリアゾーンの構築はほぼ実現できた」と話す。
 リニューアル前までのミセス偏重型のMDでは、これからのミセスの支持は得にくく、キャリア層の開拓も難しいことから、売場はミセスゾーン、キャリアゾーン、スタイリッシュ・コンフォートゾーン、インショップの4つのゾーンに分類された。
具体的には、キャリアゾーンでは、アパレルと連携した「ナチュラルビューティ」や「ソニア・リキエル」などライセンスブランドを、スタイリッシュ・コンフォートゾーンでは「ニューバランス」や「クレミュー」、「リネアE」といったブランドを導入している。
特に人気なのが後者のスタイリッシュ・コンフォートゾーンだ。
「OLが通勤時に使えるようなプレーンなデザインでありながら、クッション性や足入れがよく、見た目以上にはきやすいと好評です」(鈴木さん)。
 
今年2月、インショップ形式のモード・エ・ジャコモにリュクスの売場も加わり、前年比2ケタアップと好調に推移している。後押ししているのは、リュクスで扱うミセス向けのブランド「マニュー」だ。はきやすい仕上がりだが、かといって「いかにもミセス風」のデザインではなく、洗練度が高い。そのバランスの良さが評価された。
 オフィスに溶け込むデザインで、はきやすい靴が欲しいというキャリア層のニーズと、ミセスっぽくなく、かといってあまりとんがりすぎてもいないデザインで足に快適な靴が欲しいというミセス層のニーズ。この2つにニーズに応えた品ぞろえが、顧客満足に直結している。


情報発信と足の相談会で楽しい売場を追求

スタイリッシュ・コンフォートゾーンで人気のブランド「リネアE」。通勤に使えるコンフォートシューズとして人気が高い。
リニューアル後は情報発信にも力を入れている。
「半期に一度、1週間から2週間の期間でディスプレイコーナーを設置し、8月にはブーツ、2月にはサンダルの人気コンテストをアンケート形式で実施しています。この結果は分析し、品ぞろえに反映させています」(鈴木さん)。
 季節を先取りしたディスプレイで次シーズンのトレンドを紹介するのは、アパレルではよく見られる手法。東横店ではトレンドの積極的な発信により、キャリア層の来店を促進している。
 はきやすい靴、歩きやすい靴を求める顧客に向けての取り組みにも余念がない。毎月19、20日に予約制の「足の相談会」を実施している。ちなみに19日は、東急百貨店の各売場でさまざまなサービスを実施する日として設けられた「東急(19)デー」だ。
 開催日の2週間前に「足の相談会」の実施を紹介するチラシを買い上げ客に配るなどして告知活動を行い、事前に1日12人〜15人の予約を受け付けている。東横店にはシューフィッターの数が多く、婦人靴売場に配属された社員は19名のうち7名がシューフィッターの資格を持っているが、この日は上級シューフィッターを外部から招へい。足形をすべて測った上で顧客の悩みを聴き、その悩みを解消する靴の提案を行っている。
改装を機に導入された足裏マッサージの店フットラブ。仕事帰りのOLの利用が多く、予約客でいっぱいだ。
 
ショップとしては、写真のアルカのほかストローバが導入された。それぞれ単独に足の相談会を実施している。
これとは別に、1年前からはインソールの受注会も開始した。足圧を測定した上で作るインソールの価格は8000〜1万円。こちらも反響が高いという。
 7名のシューフィッターが売場に立つ東横店では、日頃から「断る勇気を持つ」ことを従業員に徹底させている。
「お客様の好みにマッチし、かつ足にも合う靴をできるだけ売場内から探して提案しますが、革を伸ばしたり、インソールを調整するなどしても、どうしても足に合わないことはある。しかし、『お客様に快適にはいていただくことを一番に考える』ことが売場のルール。内心忸怩(じくじ)たる気持ちはあるのですが(笑)、足に合わないのであれば、お勧めしません」(鈴木さん)
 顧客の間でのシューフィッターの浸透度や信頼度は高く、「シューフィッターはいらっしゃいますか」と指名する客が多いという。だからこそ、その信頼を裏切らないために、「長く快適にはけること」を第一に接客しているのだ。

 2〜7月の売上げは前年並み。冷夏の影響を考慮すれば、上々の数字だろう。同店では、雨の日の来店客には簡単であるが、お客さんがはいている靴の手入れを行ったり、買った靴をそのままはいて行くというお客さんには防水スプレーをかけるといったサービスも実施しているが、こうしたちょっとした試みが固定化につながっているのだろう。キャリア層の期待に応える売場の構築と、はきやすさを重視するお客さんへの真摯な対応で、同店は今後も「楽しい買い場の提供」を強化する計画だ。