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フットウエア・プレス  2006・9
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イタリア マルケ州レポート
 本誌 椎名克年
協力:イタリア貿易振興会
  手作業を重視した高品質化を図る
マルケ州と皮革製品メーカー
皮革製品メーカー6000社が集積
 靴と皮革製品の産地として世界的に有名なイタリア。なかでも北東部に位置するマルケ州は、高級皮革製品メーカーが集まる有数の生産地として有名だ。東にアドリア海を望み、西には世界遺産にも登録されているウルビーノの古城がそびえ田園風景が広がる、歴史と自然にあふれた土地である。
4県からなるマルケ州には、皮革製品メーカー6000社が集まり従業員4万9000人が働く。そのうち全体の90%を占めているのが、アスコリ・ピチェーノとマチェラータの2県だ。トッズ、チェーザレパチョッティ、ファビ、サントーニなど、世界でも屈指の高級ブランドがひしめき、アウトレット店も多い地域である。

05年対日輸出は3688万ユーロ
同州の靴の05年対日輸出額は3688万ユーロ(表参照)で、イタリア全体の対日輸出額の2割弱を占める。ユーロ高の影響や日本景気の低迷などでここ数年はやや減少傾向にあるが、依然アジアでは日本が最大の輸出国だ。
その製品の特徴はハンドメイドを生かしたもの作りにある。皮革製品に限らず高級ブランドメーカーから中小企業に至るまで、どの産業においても手作業の工程が多い。現に全産業におけるハンドメイドメーカーの比率は30%前後と高い比率だ。
イタリア靴業界は中国などアジア諸国への対抗策として、高品質化を推進している。これは伝統技術を最大限に生かした手作業中心のモノ作りで差別化する、という考えに基づいているが、マルケ州はまさにその筆頭に挙げられるだろう。



 今回はアスコリ・ピチェーノとマチェラータの2県にある靴メーカーを訪問した。


メーカーレポート
アスコリ・ピチェーノ県
トッズ(TOD'S)
近代的マーケティングと手作業の融合で高品質保つ
トッズはマルケ州を代表する高級皮革ブランド。1900年代初頭、現名誉会長のディエゴ・デッラ・ヴァッレさんの祖父がスリッパ屋として創業。80年代に発表したドライビングシューズで一気に世界ブランドになり、2000年にはミラノ証券取引所に上場。世界で2200人の従業員を抱え、06年3月末時点で105の直営店、52のフランチャイズ店を展開する。トッズグループは現在、「トッズ」のほか高級靴「ホーガン」と高級アパレル「フェイ」も有する。
現本社は98年に完成。敷地面積6万3000uのうち、建物部分は2万3000u。オフィスと1万5000uの靴工場が併設されている。製造に関わる従業員160人を含め、500人が勤務する。オフィス内には小児科や保育施設も完備し福利厚生が充実。バッグと革小物はフィレンツェの工場で生産している。

靴のサンプル製作は1シーズン200型
オフィスではマーケティングからデザイン、販促までブランディングのすべてを行う。デザイン企画はブランドごとに1チーム7〜8人の3チーム編成で、それぞれにスタイリストリーダーが統率する。靴のサンプル製作は1シーズン200型と膨大。うち半分は継続ラインだが、新モデルも100型打ち出す。使用する木型やソールはすべて自社製造。ヨーロッパ、アメリカ、アジアの大きく3種類の木型を用意し、各国に対応できるようにしている。さらに、直営店およびフランチャイズ店のウインドーディスプレイも本社で決める。什器は月2回、商品は毎週入れ替えるという。
製造の各工程では機械を活用しながらの、手作業が目立つ。例えば第1の工程、革の選別では勤続20年以上のベテランが1枚1枚精査し、各製品に使用する最適な箇所を判断する。1週間で使う革は70万フィートにも上るが妥協しない。さらにカッターによる手裁ちから縫製、つり込み、インソールの刻印といった細部に至るまで手による作業が多い。こうした手作業工程を効率的に管理する体制を築けたことが、現在の地位を確立した大きな要因といえるだろう。
革の選別作業。革に欠陥があれば部分的に切って返品することも つり込みは手作業
トッズの代名詞、ドライビングシューズは片足40〜70パーツにも及ぶ 工場の勤務時間は8〜16時。裁断など経験を要する作業以外は、3日間で交代しルーティーン化を避ける
秋冬新作のハラコのカッターシューズ 別棟になっている社長室。オフィスの周りは芝生で覆われ緑であふれている
▽ホームページ=http://www.tods.com


マチェラータ県
サントーニ(SANTONI)
手作業と機械をバランスよく使い分け急成長
現オーナーのアンドレア・サントーニさんが77年に設立した靴メーカー。紳士靴を中心に、クラシックからカジュアルまで幅広く生産する。「エルメス」のレザースニーカーのOEM生産も担当し、ここ数年で世界的に評価が高まっている成長メーカーである。グッドイヤーウエルトからボロネーゼ、マッケイ、モカシンのほか、ベンティベーニャ、ブラックラピッドなど、多くの製法を駆使することでも有名だ。
同社の成長要因の1つに、高品質と高いコストパフォーマンスを両立させたことが挙げられる。従業員250人が働く本社工場では、製品テイスト別にいくつかのラインに分かれているが、各ラインには必ず手作業の工程がある。たとえば量産ラインでも、最終工程で3段階にわたる色塗りや丁寧な磨きといった手間の掛かる作業を加え、ハンドメイド調の仕上がりにしている。機械を活用しながら、要所要所で職人の手作業を織り交ぜることで、コスト削減しつつ品質を維持しているわけだ。日本の小売価格でも5万円を切る値ごろなものもあるが、こうした細部へのこだわりは徹底されている。

職人育成目的に専門学校を開講
年間生産足数は9万足。そのうち30%がイタリア国内で、輸出は70%を占める。日本を中心としたアジアが30%、EU圏30%、その他10%。直営店は世界で7店舗を展開する。「日本人はサントーニの品質をよく理解しており、輸出先として重要な市場。最新のコレクションではレディスの評判が良かったので、今後力を入れていきたい。また直営店も増やして拡大しくつもりだ」。
今年9月には本社内に職人を育てる学校を開講する。人材育成を目的に10〜15人の規模で始める予定。職人不足が問題視されるイタリア靴業界にあって「人材確保は1つの投資でもあり重視しなければならない」(同社)と、将来を見据えた事業展開も行っている。
▽ホームページ=http://www.santonishoesusa.com
急成長するサントーニの本社 フルハンドメイドのピスポーク製造ライン 色付けは3段階で行う
工場では従業員250人が働く。 常時100種類以上のラストを用意 今秋冬新作のファー使いのミッドカットブーツ

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