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第37回ISF トークショー
「大人がはきたいと思う  おしゃれでリラックスできるシューズ」 語り手 マークブラドック取締役 長嶋正樹氏
聞き手 本誌 椎名克年

第37回ISFにて10月15日、メンズのアーバンカジュアルをテーマとしたトークショー「大人がはきたいと思う おしゃれでリラックスできるシューズ」が開催された。ここでは45分間のトークショーを一部抜粋して掲載する。
語り手の長嶋正樹氏は靴専門店トレーディングポストの経営や国産ブランド「山長」の立ち上げなど、紳士靴をはじめ靴ビジネスにおいてさまざまな功績をもつ。05年に企画会社マークブラドックを設立した。


商品や人物のスライドを見ながら解説


メンズのカジュアル化さらに進む
――メンズ市場のカジュアル化が進んでいますね。
長嶋氏 さらにカジュアルな方向に進んでいくことは間違いなさそうです。歴史をさかのぼってみても、1920年代までは紳士靴といえばブーツが主体で、短靴をはくようになったのは30〜40年代から。靴のアッパーに施したブローグ(穴飾り)はもともと飾りではなく、水に濡れた靴が早く乾くようにという実用面から付けられています。当時、ブローグを施した靴は決してフォーマルではなく、カジュアルとしてはかれていました。
また数年前からクールビズが言われるようになったことや、団塊世代が退職してカジュアルなスタイルに移行するようになったことなども、大人のカジュアル化が進む一つのきっかけになりました。昨年に有楽町丸井がオープンしたとき、スーツではくスニーカーを作ったところ、結構売れました。コンセプトが時流に合っていて良かったのではないかと思います。

――それに伴い、男性のファッションも変わってきました。
長嶋氏 堅い職業の人でなければ、ビジネスでもカジュアルが定番になるでしょう。ジャケットにジーンズ、ジーンズにドレスシューズなどはヤングアダルト層が好むスタイルの典型です。

――商品企画ではどのようなことを意識されていますか。
長嶋氏 いつも「こういう格好ではいてもらいたい」と考えて靴づくりをしています。ここ数年の間に「ダグマークソン」「スカボロー」「キャロウェイ」と3つのブランドを立て続けに出しましたが、いずれも根底にあるのはデザイン性とはき心地の両立。(チヨダを退社して)独立後に初めて依頼された仕事はアシックスの「ペダラ」で、そのときに人間工学やはき心地について徹底的に勉強しましたので、それらは靴づくりの基本として頭にたたき込まれています。
 また、靴が目的に合った機能を備えているかを考えます。もともとカジュアルシューズという靴はなく、町でワークブ−ツやスポーツシューズがはかれるようになって、カジュアルシューズと呼ばれるようになった。もとは仕事やスポーツなど目的のはっきりした靴だったのです。あと、若い時はともかく、おじさんになると、はき心地プラスリラックスできる靴で社会的ステージにも合うものが必要になってきます。

目的に合った機能性が重要
――大人がはけるカジュアルシューズのポイントは?
長嶋氏 先に述べたように、まずは目的に合った機能を備えていること。2つめは機能性。大人向けには軽い、屈曲性がある、滑りにくいなどの機能が大事です。3つめは完成度が高いこと。例えばパイピングやアッパーの比率や縫製が美しく、優れた技術によって製造されたステイタス性のある靴です。

――これらのポイントを押さえたブランドをご紹介ください。
長嶋氏 まずは「パラブーツ」。登山靴メーカーのブランドで革をぜいたくに使っています。少し重いので、このような靴でもう少し軽いものができたら、と靴づくりの目標にしています。「クラークス」は世界に先駆けた大人カジュアルの元祖として尊敬に値するブランドです。   
「コールハーン」はハンドソーンが美しい。ナイキの傘下に入って以来、機能性も加わった良いものが出ています。同様に「ロックポート」もアディダスと合併してからは、機能が加わって良い靴になりました。
老舗アウトドアブランドの「ティンバーランド」は革が良くて都会的なテイストのある、まさに大人向けのカジュアルです。「エコー」も全世界に受け入れられているカジュアルで、日本市場でも全世界共通の商品が増えてきました。以上はいずれも老舗ブランドですが、おしゃれでリラックスできるブランドは増えてきています。メーカー各社がこのゾーンを狙ってくるのは間違いない。我々も靴づくりをがんばらなくては。
  

――最後に、今後の市場の方向性について、お考えをお聞かせください。
長嶋氏 間違いなくカジュアル化に向かっていくと考えています。この市場はますます拡がり、売場での扱いも増えていくことでしょう。僕自身の方向性としては、昔もこれからもずっと同じ。若い頃に「靴業界」(現・本誌フットウエア・プレス)の座談会に参加していたころ、アメリカ帰りで興奮していたころと全然変わっていないと思います。僕たちの世代を引き継いでくれる、若い人たちがどんどん出てきてくれるとありがたい。