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これで、ロングセラー
「ダスコ」アルバニーローズウッド (荒川産業
熟練職人の手作業で作られる英国シューツリー

世の中にはそのモノに惚れ込んだ人だけが買い求めるものがある。特定のファンを強力なまでに惹きつける、いわゆる“ニッチ商品”と呼ばれるモノだ。シューケア用品においては英国ダンケルマン&サン社による「ダスコ」ブランドのシューツリーがそのひとつ( 国内の英国ダスコ社の総代理店は荒川産業)。中でも“アルバニーローズウッド”は85年に日本に上陸・発売開始以来、地道に売れ続けているロングセラー商品だ。
その特色は、1足1足が熟練の職人による手仕上げとしていること。素材は無垢のライムツリー。かつてはビーチウッドが使われていたが、少し軽くして欲しいという要望がヨーロッパで上がったため、いまの素材になったという。
木から切り出されたブロックは加工、仕上げまで手作業でつくられる。仕上げにはニスを使わず、最後の工程は靴クリームの主原料であるカルナバワックスで磨き上げられる。ローズウッド調の色合いに木目が映え、その美しさと温もりからは気品が漂うほど。とくに黒の靴に入れると一段と見栄がして、本場の英国調というテイストと相まって、好きな人にとってははたまらない魅力になっている。
大量生産が行えないため、価格は1万8000円。「ダスコ」のシューツリーの価格帯は9975円〜21000円なので、ライン
ナップの中では高額の部類になる。それでも毎月25〜26個、年間で約300個もの販売数を安定的にキープしているという。ちなみに荒川産業が扱っているシューツリーの売れ筋は中国製のもので、おおよそ5千円以下のものになる。
「たとえば中国製が100個、200個と売れたとすると、アルバニーローズウッドは1個、2個売れればいい、というレベル。こちらは英国製ですよ、工業製品ではないですよ、と。そこらへんを理解し、価値を認めていただける方だけに買ってただいていますね」と話すのは荒川産業の前田稲一朗社長だ。いかに特定のユーザー層の心をとらえているかがわかる。

今年から広告を積極的に展開
 ニッチ的な売れ方は価格設定にもあるが、靴に入れるモノなのでそれとの兼ね合いも要因になる。2万円近い製品なので、それなりの高額な革靴でないと気分的にどことなく収まりが悪くなる。ある程度高級な革靴を所有できる方を選んでしまうところがあるわけだ。またフォルムがヨーロッパのきちっとした靴に合うようにつくられているので、コンフォート系の靴の愛用者には向かないということもある。
「14〜15年前、コンフォート流行始めのころダスコ側にリクエストしたことがありましたが、彼らは真剣にならなかった。それはいいアイデアだがよその会社でやっくれ、と。この路線からははずれたくないんでしょうね。彼らのコンセプトはここから動かない。頑固なんですよ(笑)」と前田氏はダスコのこだわりを話す。
 販路は高島屋や大丸など百貨店が中心。ワールド フットウェア ギャラリーなどの一部の専門店でも展開しているが、いまのところ高級靴を扱っているところに限られるそうだ。
 とはいえ、荒川産業では今年1月より「ダスコ」に関する広告を積極的に打ちはじめた。男性が読む夕刊紙やメンズ関係の週刊誌、ファッション誌、ムック本などその数はかなりの量にのぼる。世の景気低迷のなかにあって同社はインソール関係の商品が好調なことと、ゆくゆくの景気の浮揚を見越したブランドの浸透を図っておくことで、今後の売上げの拡大を狙うためだ。
 目指すところは「つぎに景気が上がったときはうちは一歩先を行くぞ、ということ」(前田氏)。いまはそのための先行投資の時期と捉えているそうだ。(取材・文/宮間仁)