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アジア地区に共有する賃金上昇、 アセアンの課題はインフラの整備


 チャイナ・プラスワンが進んでいる。だが、実際にどのような業種が、どう動いているのかはなかなかつかみにくい。そこで、統計資料からアジア地区で活動を続ける日本企業の状況を見てみることにした。そこでは進む中国からの脱却だけではなく、新たな進出先でも問題を抱える日系企業の姿が浮き彫りになっている。


 進む「中国離れ」と新興国への移転

 ジェトロの「在アジア・オセアニア 日系企業活動実態調査」の2011年版(調査時期11年8月1日〜9月15日)と2012年版(同12年10月9日〜11月15日)を比較してみると、中国で活動する企業は1445社から1268社に減少している。一方で増えているのがベトナム(292社から402社)、香港・マカオ(209社から291社)、インドネシア(447社から486社)などの地域・国々である。
この調査の回答企業の設立年度・場所を見てみると、さらに興味深い。06〜11年の間に設立のピークが来ている国がバングラデシュ、カンボジア、ベトナム、インドなどで、数年前から着実に中国離れが進んでいることがわかる。
 業種別に営業状況を聞いている。ゴム・皮革業の営業利益見込みを見てみよう。12年と13年の見込みを比較すると状況がやや見えてくる。11年の営業利益が改善すると考えた企業は全体の48・6%であったのが、13年には54・1%となっている。逆に悪化すると考えた企業は37.8%から18.9%に減少している。このことからも、経営環境が改善している状況にあることがわかる。また、「営業利益が改善される」と答えた企業のロケーションはバングラデシュ、カンボジア、ラオスなどの国々である。地域的にも、もはや中国が優勢ではないことがわかる。これを裏付けるのがDI値(Diffusion Indexの略。改善すると回答した企業の割合から悪化すると回答した企業の割合を差し引いた数値。景況感がどのように変化しているのかを示す指標)で、13年見通しの数値が高いのはやはりバングラデシュ、カンボジア、インド、ラオスなどの新興国。ゴム・皮革業が中国からバングラデシュなど新興国に軸足を移し、経営環境が改善されつつあることが読み取れる。


 コストの増加が中国撤退の細大の理由

 では、中国から撤退しようという理由は何であろうか。こちらは、11、12年度それぞれの「事業縮小もしくは移転・撤退の理由」を、中国とアセアンを比較している項目を見ると)2年とも、中国ではコストの増加(調達コストや人件費など)が圧倒的である(11年81.6%、12年70.8%)。このほか、労働力の確保も難しくなっており(12年31.3%)、政策的な規制の強化も要因として挙げられている(11年42.1%、12年18.8%)。ことに中小企業で労働力の確保が難しくなっているようだ。12年ではどの項目もアセアン諸国よりポイントが高くなっている。
 12年ではとくに「在中国企業の今後1〜2年の事業展開の方向性」という項目を設けて、中国で事業展開する49社にアンケートを実施している。それによると、12年には「事業拡大していく」という割合は66.8%から52.3%へと減少している。ただし、事業を縮小するか移転・撤退すると答えた企業は5.8%にすぎず、半数近くの42%が「現状維持」としている。この理由は上記の理由を裏付けるもので、コストの増加、売上げの減少、労働力の確保の難しさなどが挙げられている。
国別に見た経営上の問題点では、中国に進出する日系企業の回答で最も多かったのは、従業員の賃金上昇(84・4%)。この人件費についてベースアップ率を対11年/12年比を製造業で見ると、中国は10・9%増であった。これに対してベトナム(21・0%増)、ミャンマー(18・0%増)、インドネシア(15・9%増)、ラオス(14・2%増)などが2ケタのアップ率となっている。ひとケタのアップ率ではカンボジア(5・6%増)、フィリピン(5・5%増)がある。
チャイナ・プラスワンでせっかく中国以外の国に移っても、そこで再び同様に人件費の高騰が待っているということになりかねない。安価な人件費のみを追いかけて新興国に進出するのには限界があるのではなかろうか。

続きはFWP本誌に掲載