今月の記事・ピックアップ 2013・7
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   /京王百貨店新宿店 婦人靴売場 

来店客の心理を読み 絶妙なタイミングでお声掛け

周囲の知識も借りて
高度な接客に結び付ける

 2002年に京王百貨店に入社。以来、ウォーキングシューズからスニーカー、キャラクターパンプスなど婦人靴全般を担当し、今年4月から再びウォーキングシューズ売場に配属になった山下和美さん。胸に輝く金色のバッジは「選ばれし者」の証明だ。  同社では、サービス表彰(接客に関して顧客から寄せられた称賛の言葉を表彰する制度。電話や手紙のみが対象となる)が5回に達した従業員だけに「スーパーゴールドバッジ」を授与している。社員や取引先の派遣社員も含めた販売スタッフは累計6000名中、このバッジを手にしてい るのはわずか20名。山下さんは接客技術に長けたスーパーエリートである。

 同店はウォーキングシューズの品ぞろえは日本一、取り扱いブランドは約15、商品点数も約2000点を誇るだけに、「ここならほしいウォーキングシューズが必ず見つかるはず」と期待を込めてやってくる来店客が非常に多い。そうした心理を読み、山下さんは絶妙のタイミングでお声掛けしている。

 「ウォーキングシューズが目的のお客さまは『早く声をかけてほしい』というオーラを出していることが多いので、なるべく早い段階で『いかがですか』とお声掛けしています。逆に、デザインものやキャラクターパンプスゾーンのお客さまはじっくり見てから試したいという人が大半。一つの靴を長く持っていたり、何度も試しばきをされているようなときがお声がけのサインだととらえています」(山下和美さん)。

 ゾーンごとにお客の購買意欲や購買心理は微妙に違う。そうした差異に敏感な山下さんは、売場で働くメーカーの派遣従業員の意見や助けを積極的に借りながら、高度な接客に結びつけていく名人でもある。「こんな靴はないでしょうか」と声をかけられたら、自分の頭の引き出しに頼るだけでなく、メーカーの販売員にも「こういうのはないでしょうか」とたずね、できるだけリクエストに近い靴を複数そろえる。

 「メーカーの方は本当に勉強熱心で、ウォーキングシューズの機能にもついても詳しい。師匠と呼びたい方がたくさんいらっしゃる。そうした方々も含めて京王新宿店の婦人靴売場なんです。みなで知恵を出しあって、お客さまの要望にお応えしています」。  婦人靴売場の売上げは3~5月末までの直近約3ヵ月で前年比15・9%増。好調な数字を維持しているのは、山下さんが周囲をよい意味で巻き込みながら接客の質を上げ、結果として売場全体のモチベーションが上がっているからだろう。

誠実かつていねいに
説明を尽くす  

 より専門的な知識を身につけたいと、06年にシューフィッターの資格を習得した山下さんは、「足に靴が合わなければ率直にその事実を伝える」ポリシーの持ち主。ただし、伝え方には山下さんなりの流儀がある。

 「なるべく柔らかい表現になるように、『これでは指が入りますよね?』『このお靴ではかかとが脱げてしまいませんか?』のように、疑問形でお伝えしています。足に靴が合っていない場合はとにかく3回は説明しますね。それでも『どうしてもこれがいい』といわれる場合はもう仕方がありませんが、ほとんどの場合わかっていただけます」。
 「指が入りますよ」「靴が脱げてしまいますよ」と断定的に言わず、疑問形で話すようにしているのは、できるだけ相手に納得してほしいからだ。
 「納得いただけない場合は必ず何か理由があります。その理由を知り、こちらの提案を理解していただくには、きちんした説明が欠かせません。どうしてストラップがあるといいのか、靴はどこで足を留めているのかをお伝えすることが大切。ウォーキングシューズやウォーキングパンプスは機能を求めて買いに来られていますから、なおのこと、説明を尽くしたいと思っています」。

 約6年ぶりにウォーキングシューズ売場に戻ってきた山下さんは、売場の変化にとまどいを感じたという。以前と比べて、若いお客が増えているだけではない。好みも大きく変わっていたからだ。
 「以前はデザインよりも機能を追い求める方がほとんど。機能がニーズの100%を占めていましたが、今はデザインが20~30%を占めている感じですね。スカートにも似合う靴がほしい、もっと違うカラーがほしいといった要望も多い。ファッション性が重視されています。世代交代を感じますが、新しいブランドも増えているので初心に帰って機能やデザインなどしっかり学んでいきたいです」。

 お客に説明を尽くし、優しくていねいに顧客に対応する山下さんには、たくさんのファンがいる。服を買いに来たついでにあいさつに来る人、半年に一度、定期的に訪ねてくる人、仲のよい友人を婦人靴売場に連れてきてくれる人などなど。「スーパーゴールドバッジ」にふさわしい活動がこれからも繰り広げられるに違いない。

   接客のポイント
  • ゾーンによって異なる「話しかけるべきタイミング」を見逃さない
  • メーカーの協力を仰ぎながら、売場全体で接客の質を上げていく
  • 靴が足に合わない場合、疑問形による柔らかい表現で顧客に納得してもらう