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 第16回サントリー健康セミナー 2013年 「脚の老化対策 最前線」より
「100歳まで元気に歩こう〜歩き方ひとつで若返る〜」
 ミズノウォーキングアドバイザー、健康運動指導士 黒田恵美子氏

サントリーウエルネス社では、氾濫する健康に関する情報の中から、役に立つ最前線のそれを伝えている。今回のテーマは「脚の老化」。関節を痛めて歩けなくなってしまう高齢者が増えている現実を見据えたうえで、姿勢と歩き方によって健康度が高まるということを、長年ウオーキングアドバイザーとして経験を積んできた黒田恵美子氏がレクチャーする。

正しい骨格配列になっている正しい姿勢

 よりよい歩き方について、立ち姿勢をよくする、立ち方を意識する、筋肉を強く柔らかくする、自分に合ったよい靴をはく、の4つのポイントからお話ししたいと思います。

 よい姿勢は、自分で知るのが難しいです。壁に背中をくっつけるとよいといわれますが、肉づきや頭の形によっては正しくならない場合もあります。最近の若い女性に足をハの字に開いてお腹を突きだして立つという格好をしている方が多く見られます。これはもともと高齢者の方に多い姿勢なのですが、筋力が弱っているとこのようになりやすいです。この姿勢は、股関節、膝、腰に痛みが出やすく、下腹が出て、お尻の筋肉が衰え、肩もこりやすい。筋力の低下は高齢者の方にとっては大問題。お腹の奥で内臓を支える筋肉が弱るとお腹はどんどんポッコリになり、お尻はどんどん扁平になってしまいます。立ち姿勢が悪いと、筋肉のつき方が変わり、骨格がゆがみ、体型を崩すことになります。

 「アライメント(骨格の配列)」という言葉があります。正しい姿勢とは、骨格が本来あるべき配列になっていることを意味します。みなさん、頭から肩にかけて、首を触ってみてください。前に向かってS字カーブを描いていますか。現代では、猫背や長時間のパソコン作業によってカーブのないストレートネックが増え、首のアーチがなくなっている人が多いです。逆に、よい姿勢の象徴のようなバレエダンサーのように、顎を引いて背筋を過度に伸ばしていると、これも、ストレートネックになり、首の痛みや肩こりが起きやすくなります。

 骨盤の真上に胸郭が平行に乗っていて、背骨がS字カーブを描いているのが正しい姿勢です。普段お腹を前に出して立っている方は、お尻を少し後ろに引いたくらいで骨盤の真上に胸郭が乗ります。骨盤が胸郭より前に出ていたり、後ろに引けていたり、腰が反り過ぎていたり、胸を反らせすぎていたり、これはみんなゆがみで、腰や肩を痛めやすくします。正しい姿勢の基準には、左右の肩の高さと骨盤の高さが左右同じであること、膝と足先の向きが同じであることなども挙げられます。

足の甲が見える姿勢で歩く

 肩の高さの左右差を直すポイントは、荷物の持ち方です。重い書類の入った営業用バッグを毎日同じ側の腕で持ち続けると、何年、何十年の間に片方の肩が上がりすぎたり下がりすぎたりし、骨盤もゆがみます。荷物は、5分くらいごとに左右持ち替えるようにして、片側に負担がかかりすぎないようにしましょう。また、どんなタイプの鞄でも、ヒモは短めにして体にフィットさせるようにしましょう。ヒモが長すぎると、歩きにくく、体がゆがみやすいのです。
 では、自分の姿勢を正しくするにはどうしたらよいのでしょうか。簡単にチェックする方法があります。まず、普通通りに、何気なく立ちます。そして、何となく下を見る。何が見えるでしょうか。お腹が見えて足の甲が見えないという場合は、骨盤が前に出て背中が後ろに引けている状態で、腹筋や背筋、お尻の筋肉が衰えて猫背になりやすく、早く歩けないということになります。逆に、胸が見えるが甲が見えない場合は、胸をそらせすぎ、あごを引きすぎているので、腹筋が弱りやすく、背中や首がこりやすく、歩くと重心が前に移動しにくいため、やはり早く歩けないことになります。そこで、正しい位置を探ります。まず、わざと下腹を前に出した姿勢で、足の付け根に指を当てます。下を見るとお腹が見えて足の甲が見えません。「こんにちは」をする要領で、少し前傾し、足の甲が半分くらい見えたところで顔を上げるとだいたい骨盤の位置がよくなります。さらに、胸の真ん中に指を当ててため息をつくように息を吐くと胸の緊張がとれます。

膝の曲げ方のゆがみをチェック

 次は、膝の曲げ方のチェックです。握りこぶしひとつ分左右の足の間に入れた幅で立ちます。さらに、膝の間に握りこぶしをいれて軽く屈伸してみてください。膝が握りこぶしを押した方は膝が内側に曲がろうとするタイプ、膝が握りこぶしから離れる方は膝が外に向かって曲がろうとするタイプ。どちらも膝痛予備軍です。「スクワットを一生懸命やっているのに、膝が痛いの」という方はこれらのタイプかもしれません。ゴルフをしている方で右膝が痛い場合、右膝が内側にねじれやすくなって痛んでいる可能性があります。膝関節は後ろに曲げるだけしかできない関節で、横の動きに弱い。強く、長く横に動かす動作をしていると傷みやすくなります。よいのは、膝が押されもせず離れもせずまっすぐに足先の方向に動くという位置になります。
 これを治すには「ゆるゆる屈伸」をするといいです。握りこぶし1つ分の幅で立って、握りこぶしを膝に入れて、軽く屈伸をします。押しもせず離れもしないでまっすぐに動く感覚がわかったら手を放して体を起こす。手を両脇に下げて、軽く1〜2分屈伸する。あるいは立ち話をしているとき、あるいは会議中(笑)、やってみてください。徐々に、膝と足先の方向がそろうようになってきます。

腕を左右平行に、やや後ろに振る

 正しい歩き方といいますと、「顔は正面を向く、手を振って、胸を張って、猫背にならないで、かかとから着地し、つま先で蹴り出す」などいろいろポイントがたくさんあります。ところがこれを全部意識したら歩けなくなってしまう。そこで、ポイントを2つに絞りました。「腕を左右平行に、やや後ろに振る」ことと、「おへその下に少し力を入れる」ことです。
 「腕を左右平行に、やや後ろに振る」と、重心が前に移動しやすく、体が起き上がりやすくなります。腕を振らないと前に足が出にくくなりますが、腕を平行に、やや後ろに振ってみると、ちょこちょこ歩く高齢者の方でも歩幅が5cmも広がってきます。腕を前に狭く後ろで広く振ると、モンローウォークになります。膝が内側に入り、ウエストはくびれますが腹筋は弱くなります。逆に腕を前で広く後ろで狭く振ると、膝が広がってガニ股になって、オヤジ歩きになり、お尻や内転筋・大臀筋が弱ってしまいます。
 腕を平行に、やや後ろに振ることはこのように大切です。正しく腕を振れば、歩幅が広がり、蹴りだす力も強くなる。速度が上がり、歩幅が広がれば運動効果が上がりやすくなります。日本人は着物を着ていた長い伝統があります。そのため、裾がはだけないよう、内へ内へと引き歩きをしがちなようです。意識していかないとなかなか歩き方は変えられません。

体重の1・5倍の重さを支える靴

 靴のあり方も重要です。歩き方をよくしただけでは足を守ることはできません。着地時には、体重の約1・5倍もの重さが足にかかってくるのです。さらに、日本人の足首は、着地時に内側に倒れやすいです。道具としての靴を、考えてみましょう。
 足には、親指側から小指側への横のアーチ、親指の内側からかかとにかけての横のアーチ(土踏まず)、小指からかかとにかけての縦のアーチの、計3つのアーチがあります。体重がかかることで、アーチが潰れやすくなる。潰れると、外反母趾、偏平足などの変形、筋力低下による痛みや疲れやすさ、タコや魚の目などの皮膚疾患を起こしやすくなります。
 靴に求められることは、足の3つのアーチを支えてくれること、かかとの着地ポイントが定まること、靴の中で指がしっかり開き地面をつかむ感触があること、着地の衝撃を吸収してくれること、親指の付け根で地面を押し、親指が最後に地面から離れるようにサポートしてくれること、長く歩いても疲れないこと、などが挙げられます。そして、はく時には必ずヒモを締め、甲にフィットさせます。脱ぎ履きが面倒ならファスナーがついていると便利です。
自分自身で立ち方、歩き方に意識を払い、足をサポートする靴を選ぶことが大切だと思います。