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アディダスA.G.が8月8日発表した2013年上半期連結業績は、売上高71億3400万ユーロ(前期比2・8%減)、純利益4億8100万ユーロ(同6・0%増)となった。前期(12年上半期)の連結売上げ16%増、純利益30%増に比較すると大幅な業績ダウンである。低迷の直接原因は西ヨーロッパ売上げ(前期比9%減)とアジア売上げ(同8・4%減)が最大の原因である。
ブランド別売上げはアディダス(同2・4%減)、テイラーメイド(同2・1%減)とも厳しい状況で、リーボック(同6・9%減)は依然不振が続いている。

中華圏で成長に急ブレーキ

90年代のNBAのバスケットシューズブーム時代から、アディダスはフットウエアでナイキに押しまくられてきた。しかし、発展途上国のアパレル市場では、他のブランドの追随を許さない圧倒的な強さを発揮した。その主力市場が中華圏だった。過去5年間、中華圏の売上げは目を見はるほどの高成長をキープしてきた。ところが13年第1四半期に入って、突然急ブレーキがかかった。

アディダスの中華圏売上げは最成長期の11年第1四半期は前期比43%増、12年第1四半期も同36%増とハイペースだった。ところが13年1Qには同6.3%増に成長が急低下した。12年12月期の中華圏売上高は15億6200万ユーロ(同27%増)で、連結売上げに対する構成比は10・5%だった。12年から13年の第1四半期に発生したような30%近い成長減速が起こると、連結売上げが3億ユーロを越える減収になるから、連結売上げで実に3%近い成長減速になる。実際にこの成長減速が13年第1四半期に発生したから、アディダス経営陣は事態を憂慮して、中期経営計画(11〜15年)で打ち出してきた政策推進を強化推進することにしたのである。

グローバルシティで販売強化

これまでアディダス成長のけん引力になってきたのは発展途上国で、その高成長消費を吸収することでグループ成長を支えてきた。この図式にイエロー信号が灯ったからには、次善の策を講じなければならない。打ち出された対策は、グローバルシティの販売強化と小売りビジネスの育成強化である。

ナイキよりはるかにグローバル化しているアディダスにとって、00年代以降のグローバルシティ(大都市圏市場)は成長市場ではなく、むしろ衰退市場と認識されてきた。世界の大都市では、パフォーマンス型のスポーツ用品はニッチ市場化してしまっていたから、本来パフォーマンスブランドのアディダスは、発展途上国のほうが成長に有利だったのである。

他方でステラ・マッカートニーやY3のようなソフィスティケイトしたプロダクトは、H&MやGAPのようなクロージング・メガチェーンとの競合が激化してきた。この結果、アディダスは世界の大都市より、中華圏や東ヨーロッパ、中南米のような発展途上国の消費を吸収して成長するグループ経営戦略を推進してきたのである。

このビジネスモデルが有効でなくなりつつあることから、アディダスはこれまで衰退市場と認識してきたグローバルシティの販売を強化し、他方ではクロージング・メガチェーンとの競合で優位に立つために小売り部門強化を打ち出した。アディダスが11年以降に力を入れてきた「オリジナルス強化」、「オープニングセレモニーとのコラボレーション」、「コンテンポラリースタイル業態育成」などは、すべて大都市市場の見直しと小売りビジネスユニットの強化推進のための具体戦略だった。以下にその中からオープニングセレモニーとオリジナルスキャンペーンの最新版を参考までに示す。

キャンペーンはラッパーやDJ起用

アディダスとオープニングセレモニー(OC)が6月に発表した「2013年秋冬 オープニングセレモニー×アディダスオリジナルス」コレクションが7月中旬に発売された。6月初頭に発表された13 年秋冬ルックブックのテーマは「クライミング」と「バスケットボール」の2テーマで、ディストリビューションはクライミングが7月、バスケットボールが8月と分けて行うと表明していた。

今回は3回目の「2013 カプセルコレクション」のテーマは「テニス」だった。毎回月並みなテーマだが、デザインのアレンジは独創的で、キャロル・リムとハンバート・レオンのデュオ(OCデザイナー)には恐れ入りましたというほかない。第3回目前半のテーマ「クライミング」もアパレルはエキセントリックなテーマ解釈を披露している。しかしフットウエアのほうは、どうもこの2人、ナイキのACGが好みだったようで、発売モデルはナイキACGによく似ている。

アディダスはラン-ディーエムシー(Run-D.M.C.)とA-トラック(A-Trak)を起用した13年秋冬キャンペーン「ユナイト オール オリジナルス」 を、8月1日にスタートさせた。かつてのニュースクールラッパーの旗手と、かたやバトルDJ世界を制覇したターンテーブリストの組み合わせで、オリジナルスの文字通りオリジンを問い直すキャンペーンである。

今回の「ユナイト オール オリジナルス」キャンペーンは、オリジナルスの全プロダクトを結びつけるプロモーションに加えて、第1ステップはラン-ディーエムシーとA-トラックのパフォーマンスユニット、第2ステップは消費者がヴォイスコマンドとビジュアルイフェクトでラン-ディーエムシーのインタラクティブフィルムを鑑賞できる。

ラン-ディーエムシーは02年にクイーンズで不慮の死を遂げたジャム‐マスター ジェイを欠いているが、ディーエムシーとレイ ランは元気な姿を見せた。キャンペーンはあまりにもファクターを盛り込み過ぎて、いまひとつインパクトに欠けているというのがアメリカ市場での評価である。