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 HOME > フットウエアプレス > ISFセミナー 「重要度増す服飾雑貨のマーチャンダイジング」
   

講師
東急百貨店 営業制作部・婦人関連コーディネイター 
礒岩 嘉美 氏

 注目を集めるグランドジェネレーション(GG)

 東急百貨店には営業制作部というポジションがあります。私はここで、ゼネラルトレンドということで商品に対するマインドの変化、流通業界の動向を何人かのメンバーでチームを組みリサーチを行っております。専門は婦人・服飾のカテゴリーディレクションとなりますので、リサーチで得られたこのカテゴリーにおけるトレンドを把握しつつ、東急百貨店の顧客に対応した形でシーズンごとの提案に落とし込んでいくわけです。これをベースとして、シーズンのはじめにポスターやリーフレットでテーマや商品をアピールし、バイヤーに対するアドバイスを行う仕事もしています。
今、団塊世代は「変化するライフスタイルの中の新しい大人」という位置づけがなされています。最近ではこの世代がグランドジェネレーション、すなわちGG(ジージー)と呼ばれていることはご存じでしょうか? 略して「グラジェネ」と称することもあります。この世代の塊は、1947年をベースにした3年間で一つの大きな人口の突出した山を構成しています。人口がたいへん多いことから、新しい消費を喚起しようと多方面からその動向が注目され、企業側からの働きかけも行われている状況です。例えばイオンさんのCMでは今「人生は後半戦がおもしろい」と、グループの総力をあげてシニア層、つまりグランドジェネレーションに対して力を入れているところです。
 世代的な特徴ですが、まず第二次世界大戦後に生まれた「戦争を知らない世代」ということがあげられます。メンタル的な面や思想的な面で共通しているところがあると同時に、日本経済においては高度成長、バブル景気、そして失われた20年といわれる時代を経験してきました。こうした背景と突出した人口の多さもあり、よくも悪くも「日本社会のありように多大な影響を及ぼしている世代」ともいえるでしょう。

足元のはきこなしで自分らしさを表現

 著名なファッションデザイナーで島田順子さんという方がおられます。彼女は70歳前後で、団塊世代より前の世代ですが、ご職業柄みごとなシューズのはきこなしをされています。お散歩とかガーデニングの手入れのときにはしっかりと「機能的なスニーカー」、近くにお買い物へ行かれるときや、隣接の仕事場では「ドライビングシューズ」とか「スリッポンタイプ」の靴、ご自宅でオフィシャルに近いパーティーをするときは何と「ピンヒール」、そして地方で親しいお友達を招くときは「モード系のサンダル」、軽くコートをはおって会社にお出かけという日は「モード性のあるシューズ」と、シチュエーションに応じた靴を愛用されているわけです。島田さんの足元に対するファッションセンスは、団塊の世代のおしゃれな人たちや、JJを通過した50代の人たちにも通じる「これからのシューズのMD」を示唆していると思います。
 島田さんのファッションスタイルに限らず、ファッション雑誌全般をみても「今やシューズの位置づけがいかに大事か」ということが読み取れます。この傾向は一般の方だけでなく著名な方々においても変わりありません。「同じドレス、同じTシャツであっても足元の着こなしで自分を表現するのがセレブの着こなし」という流れが出ており、一般の消費者にもかなり影響をあたえ始めているところです。


スタイリングの要は服飾雑貨
シューズとのバランスを考える


 この流れをふまえてMDポイントの話に移ります。服と服飾雑貨との関係をからめながら進めさせていただきます。
 服に対しては「連続価値」が、服飾雑貨に対しては「変化価値」を求める動きが出てきています。「変化価値」とは、服飾雑貨でファッションの流行をほどよく採り入れようという流れです。リアルな状況の話をしますと「服自体にはあまりお金を使わずリーズナブルなもので対応していく」ということです。トレンド性は考えるが購入する服はザラ、H&M、ユニクロなどのプライスラインのものでOK、という考え方ですね。一方、「変化価値」を求める服飾雑貨には「プレミアム性を求める」傾向が高くなってきています。
 この流れは3〜4年前から見えてきました。実は世界中の百貨店の売場が変わり始めています。昨年だったと思いますが、ニューヨークのメイシーズでは総面積5800uという世界最大のシューサロンができましたし、ロンドンの高級デパート・セルフリッジも7万2000足の靴が集う世界最大のメンズ靴売場をオープンさせました。日本でも梅田阪急さん、新宿伊勢丹さんがリニューアルしたときに靴売場を拡充させています。ごく最近では、銀座の松屋さんもシューズ売場を充実させました。ファッションにおいて、シューズが自分の個性を表現する上で重要なものになっていることが、売場の状況からも見受けられるということです。








産地としての浅草に期待し、そのよさを引き出す


 浅草の強みを活かすタイアップを

池田 靴の産地である浅草に元気になってもらい、マーケットも活性化させていく。その意味も込めて見本市ISFが浅草で開催されるようになってから3回目を迎えます。消費の王道である百貨店さんに「どういう形でお手伝いいただけるのか」という部分もふくめてたいへん期待しております。さて、東急百貨店さんに関してですが、本店は特に客層のクオリティーが高いと感じています。もちろん比較的オーソドックスなものを多く扱っていらっしゃることとは思いますが、いわゆる「ラグジュアリーブランド以外における商品で消費に貢献する」ということに関して、ひと言いただければ。
礒岩 シューズに関してですが、社会的に働く女性が増加し、40代以上のビジネスウーマンが管理職になるなど、さまざまなところで女性の地位が向上してきています。それにともない、パターンオーダー的なスーツのニーズが高くなると同時に、例えば「そこそこのプライスで走れるパンプス」などの付加価値をもったシューズの需要もかなりあることがわかりました。しかし、それを提供する百貨店側はまだ対応しきれていないのが実情です。産地である浅草の強みを活かす形でタイアップし、取り組んでいくという考え方もあると思います。
池田 今回のISFでは、全日本革靴工業協同組合連合会および東都製靴工業協同組合など靴づくりに携わる業界の方々が「あなたにぴったりの靴を見つけるためのシステムづくり、体系づくり」への取り組みをPRされていました。「一つの靴種、一つのサイズで9タイプの靴を準備する」ことが可能になるそうです。消費が個々のスタイルに合わせていく流れのなかで、靴も個々に合わせたものができないといけない、ということですね。今まで百貨店は情報的なものを売り、モード的なものを価値として提供していました。この役割はこれからも継続されるでしょうし、浅草側も問屋さんをはじめ貢献しなければいけないと思います。ただ、今の流れにのっとったもう一つの役割として「生活をバックアップする」という考え方も方向としてあるのではないかと思います。申し上げたサイズシステムの話は、そのための一つの切り口になっていると思うのです。例えば東急さんとコラボレートして、売場としてこういう動きをバックアップしていくというのはいかがでしょう? 日本の靴文化、靴産業を支える力にもなるのではないでしょうか。
礒岩 当社もいろいろなお客さまに対してインタビューや調査をしています。中でも年々多くなっているのが「パターンオーダーを増やして欲しい」という声です。服も既製服では物足りない。靴も個々によって足型が違ってきますし、年齢とともに変化してくる。「おしゃれでいい靴をはきたいのだけれど、ぴったりしたものがない」のです。こういう要望にはしっかりと応えていくべきだと感じています。売場のあり方はバイヤーとして提案していきたいと思います。

新しい形のショップ「シューズ カレイド」

池田 その先駆けともいえるのがヒカリエの「シューズ カレイド」ですね。奥できちっと個々人の足の機能をサポートするために、フットベットなどのフットケア用品を含めいろいろなパーツを供給されています。東急さんが変わってきたな、という印象を受けました。その次に進むべき段階が今のお話の具現化であろうと思います。
 そこでご提案になりますが、浅草の各ブランドの特性やテイスト、得意技など各メーカーの個性をいろいろ受け止めていただき、比較検討しながら消費者に選んでいただける売場を展開していくというアイデアはいかがでしょう? 
礒岩 企画内容などを吟味しながら考えたいです。実は、ポップアップショップを展開できるような売場はかなり増やしているところです。ご提案いただいたアイデアの実現は可能だと思います。
池田 最後に、浅草のことを含め、お話をまとめていただけるとありがたいのですが。
礒岩 最近感じたことで、「シューズは肌着ととても似ている」ということがあります。全然関係ないように思えて、実は「肌に密着する」という部分で共通点があるのです。人間の神経をいいも悪いも刺激するものなのですね。ワコールさんにお世話になったことがあり、下着の体験研究システムのすごさを目の当たりにしました。ヒップアップやバストアップを人間工学的なものをベースにして研究し、長年にわたって継続しながら絶えず商品に生かしているのです。シューズが肌着に似ていることを加味すれば、浅草も産地の強みを生かして「データ化したものをきちっとまとめながら、新しい商品開発に生かしていく」というシステムも考えられるのではないかと思います。
 今年は20年のオリンピック開催が決まりました。当社も20年に渋谷駅東側が変貌して新しい百貨店ができることとなり、社内のムードがとてもいいのです。新しい夢に向かっていけるという希望があるからです。浅草もおそらく同様で、オリンピックの開催によって浅草を中心にいろいろなものが活気づいてくると思います。こういう流れをふまえながら「7年後に向けての産地のあり方」のビジョンのようなものを、考えていただければと思います。