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――「新しい靴のサイズ表示」についても提案――
 全日本革靴工業協同組合連合会と東都製靴工業協同組合は、2013年10月開催のISFにて「あなたにぴったりの靴を見つけるためのシステムづくり〜新しい靴サイズ表示のご提案〜」というタイトルで、来場者に対し、婦人靴・紳士靴の「フィッティング体験会」を実施した。これは、経済産業省、一般社団法人日本皮革産業連合会、産業技術総合研究所などが行っている「足入れの良い革靴プロジェクト」の一環で、プロジェクトによって完成した木型によってつくられた靴のはき心地を確認するもの。それと同時に、「新しい靴のサイズ表示」についても提案しており、これが実現すれば日本の靴産業に大きな転換をもたらす画期的なものになりそうだ。
 フィッティング体験会の実施と新サイズ表示の提案について、産業技術総合研究所・デジタルヒューマン工学研究センター協力研究員・元田真吾さんに聞いた。

靴型を研究し日本人の標準の形に近づける

 「足入れの良い革靴プロジェクト」は、2011年から開始された事業で、14年3月でひと区切りとなる。これまでは靴型を研究し、「日本人に最も合った」ものをつくろうということが主軸となっていた。スタートは、主要メーカーに既成靴のなかで売れ行きのよい靴の木型を提供してもらうところからで、これらを平均的なものに収れんしていったのである。ことに婦人靴のねらいは、(足が前に滑るため)締め付けないとはけないパンプスを、(締め付けなくても)脱げないようにすることと、6pのヒールを、摩擦の力を使って前に行かないようにすることであった。
「さまざまな形のものをつくりました。靴底の形状を変えると、かかとが低くなった感じがする、滑らない、というコメントもありました。しかし、曲面をつけるということはカスタマイズに等しい。足の形は人それぞれに違うからです。そのために、既製靴用の木型の底面は一般的にフラットになっている。曲面をつけても、すべての人が『これがいい』というわけではないのです」。
 婦人靴の場合、今回の体験会のために用意したのは22cm〜24・5cmの6サイズ。これに木型の底面を曲面に変えた靴2タイプ(B・C)と、従来のもの(A)の3タイプ。さらにウイズC・D・Eの3展開を加え、全部で54足となった。「フィッティング体験会」で足入れした後に「どれが最もよいか」選んでもらうと、Aが30人、Bが30人、Cが24人という、ほぼ3分の1ずつという結果になった。
全部で48足用意した紳士靴ではもっと顕著だった。木型のタイプは従来のもの(A)と曲面があるもの(B)の2タイプのみ。結果はAが27人、Bが64人と圧倒的である。
婦人靴、紳士靴ともに木型の曲面はかかと部分とアーチ部分、足先部分など。「ホールド感がいい」という声が多かった。
「感想を見るとはき心地が『よい』『非常によい』という人が女性で85%、男性で71%にものぼりました(図1・2)。これだけの人が支持をしてくれているわけです。『あまりよくない・よくない』と答えた人は、女性で6%、男性で5%でした。今回は3タイプのみですが、自分の足に合った長さ、幅、形のものをはけばはき心地は劇的に変化するのだということがわかりました。『これまでにないはき心地』とおっしゃる方が多かったのです」。
 服でも靴でも、自分の体の形に合ったものにはフィット感があり、心地よく感じられるのは当然である。しかし、ここでは既成靴をどれだけオーダーメイドのはき心地に近づけるかをくふうしているのであり、そこに意味がある。


3次元の要素を加えた新しいサイズ表示

 次の段階として、はき心地をどう再現するかという問題が生まれた。これを解決するものとして提案されたのが、「新しいサイズ表示」である。
 基本的な考え方は、全国のメーカーが同じ木型(基準木型、リファレンス木型)を使って革靴を製造し、靴の基本的形を合わせようというものである。「23p、ウイズC、木型の底面はBタイプの靴」(*)というように、これまで長さとウイズという2次元のJIS規格で表示していたものに、足の形という3次元的要素を加える。((*)今回のフィッティング体験会と同様、3タイプ、3ウイズで考えた場合。)
 この考え方に対しては、さっそく反対意見が出てきた。在庫が多くなるというのである。単純に考えるなら、これまでの在庫数×タイプ数となってしまう。
「もちろん、1社でそろえるのは無理です。浅草などどこかまとまった地区で『うちは小さめの靴のB、Cタイプ』『うちはA、Cの広めのタイプ』とどれかをつくる。ショップでも『うちはBタイプが多い』『小さめCタイプならあそこのお店の方がいい』とすみ分けし、互いに紹介しあうのです。店頭ではタイプ別によってお勧めできるので、お客さまと販売員、双方の手間が省けることになります」。
 別の反論も出てきた。靴はファッションでデザインセンスが大切であるのに、同じ木型でいいのかという意見と、メーカーによって仕上がりが異なるのではないかという、現場が持ちそうな疑問であった。
 では、木型はそのままにして、トウ部分の形を変えてみたらどうなのだろうと、さっそく実験してみることにした。ポインテッド、ラウンド、スクエアの3種類をつくってみると、意外にも表情が全く違う。さらに、同一の木型を使い、主要パーツを共通素材にして、4社でつくり込みをしてみたところ、わずかの差は出るのだが、足入れ感にほとんど差はなかったのである。
「産業技術総合研究所では、認証システムを提案しています。特保(特定保健用食品)のように認証してみようというのです。地域一番店や大型店が『お試し店舗』となって、コーナーを設置し、試しばき用の靴を置いて自分のタイプを知ってもらう必要があります。認証商品の共通サイトを立ち上げ、『こういうタイプの靴を製造しており、このショップに卸している』ことを登録すれば、インターネットで検索がしやすくなり、ショップの販促にもひと役買える。購入側が登録しておけば、『お客さまのタイプの靴で、新色が出ることになりました。このお店で販売しています』とメールも来ます」。
                   
 このサイズ表示の考案は、実はとても画期的なことである。「はき心地」をいかに再現可能な形にするかという難しい問題に取り組んだ結果であり、3次元的サイズ表示は全世界的にも類を見ない。この表示を使えば通販の返品率も低くなりそうだし、「これまでにないはき心地」が実現するのであれば、メイド・イン・ジャパンのファンももっと増えるに違いない。
 ただ、やらなくてはならない課題は多い。まだスタートラインに立ったばかりなのである。メーカーばかりでなく、卸や小売りなど流通段階も含めた業界全体のコンセンサスを取る必要があるだろうし、公のテーブルに乗せて議論する場を持つことも大切だ。今はまだ3タイプだが、当然もっと増えていくことも予想されるし、これからもさまざまな反論が出てくるだろう。
 だが、この構想を業界の共通のものとし、足入れのいい革靴を提供することは、メイド・イン・ジャパンの革靴の活性化につながる一手段であることは確かだ。