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有力地方専門店のいま
サンテングヤ (福岡・久留米市)

グレードの高い品ぞろえと接客で、地域のシャアを高める

 九州新幹線が開通し福岡からは20分弱と身近になった久留米市は、古くから靴と密接な関係のある街だ。「アサヒコーポレーション」「ムーンスター」などの老舗ゴムメーカーが立ち並ぶ、靴業界とは縁の深い土地である。大都市とも隣接し、大型店の出店も増えてきたこのエリアで、創業から60年以上も靴専門店の看板を守り育ててきた「サンテングヤ」。どのように商売と取り組んできたのか、代表取締役社長の稗島(ひえしま)謙司氏に聞いた。


 現在展開している店舗は、西鉄久留米駅前に立ち並ぶ「久留米岩田屋」の本館と別館に3店舗、「ゆめタウン久留米」内に2店舗、「ゆめタウン八女」に1店舗の計6店舗である。岩田屋のある場所は、稗島社長の父である初代創業者が下駄の卸をしていた地にあたり、今年で30年目を数える。
 3代目となる息子の稗島大督(ルビ:ひえしま・だいすけ)さんは、東京の靴メーカーの修行から7年前に戻り、ゆめタウン久留米店 プラス店で店長をしている。サンテングヤ メンズ店の店長である、同世代の北村圭三さんとの二人三脚も地について、若い新鮮なアイデアを吹き込んでいる。
「社長が今でも売場に立ち接客しているのを見ると、自分も頑張らなくてはと思います」と大督さん。社長の若々しく張りのある声は、若いスタッフにも負けない迫力。時おり新入社員に話しかけ、接客後のフォローなど社長自らコミュニケーションを欠かさない。
稗島社長の「セルフ販売ではよいものが売れない。最後はアナログな接客に戻ってくる」という言葉は、まさにサンテングヤの持つDNAそのものだ。



独自の品ぞろえと接客力で客単価をあげる本店

 岩田屋本館2階にある約100坪の売場が、「サンテングヤ」の本店である。現在年商1億8000万円という実力店だ。インショップ形式ではなく、平場のようにコーナーで売場が分かれている。カジュアル、ウォーキング、エレガンス、そしてインポートと幅広いアイテム展開でありながら、低価格品を極力排し、高い接客力とグレード感を演出することでレディスでは2万円近い客単価を維持している。
古くから「バリー」「ブルーノ・マリ」「マックスマーラ」「ガボール」などのインポートブランドも取扱い、久留米市内の靴専門店ではトップクラスのシューズブランドを擁している。定番として根強い「アキレスソルボ」「スポルス」「メディカルウォーク」「クラークス」などのミセスに人気のウォーキングブランドから、若い女性からミセスまで広く支持される「アグ・オーストラリア」、足のトラブルに悩む方には「ドクターショール」や「アルコペディコ」など、一般的な靴専門店ではあまり見かけない、独自の品ぞろえが特徴だ。
隣接する岩田屋新館には、「サンテングヤ メンズ店」と「リーガルシューズ久留米店」がある。メンズ店の方では、靴とバッグの両方をそろえた「バリー」コーナーを展開。他にも「グラバティ」「カルロ・メディチ」「ジョンストン&マーフィー」といった、こだわりのクラシックブランドをそろえている。
また九州内では取り扱いの少ない、バルカナイズ製法で国内生産されたムーンスターの「メイド・イン・久留米」ブランドのスニーカーも並ぶ。地元発のスニーカーをより多くの人に広めたいという思いは社長以下スタッフ全員が強く感じているという。価格帯が5000〜7000円と値ごろなのも魅力だ。
「福岡の天神まで行かなくともここでいいブランドがそろっている、と驚かれます。8月末にはリーガルシューズの改装を控えているので、さらによいものが売れる店にしていきたいです」と北村店長。男女ともにゆったりと買い物ができる場所が少ない中で、独自のMDを構築している。

ヤングにアピールするゆめタウン久留米店

 2003年に久留米市の郊外にオープンした「ゆめタウン久留米店」には、1階フロアで35坪の「サンテングヤ」と14坪の「SUNTENGUYA PLUS」の2店舗を構える。レディスのフルラインをそろえる「サンテングヤ」では、奥のコーナーで「セブン・トゥエルブ・サーティ」などのエレガンス系、「モードカオリ」「あしながおじさん」「HIPS」などのカジュアル系革ブランド、オギツやレディマドラスなどのミセスブランドを展開。そして地方店では珍しい「フィットフロップ」や「アグ・オーストラリア」といった、ヤング層で人気のブランドも積極的に取り入れている。
「今までのやり方に固執せず、雑誌やショップなどを見て『いいな!』と思ったら新規の取引先でも積極的に電話しています。そこから新しい繋がりが生まれるなど発見があります」と、ゆめタウン久留米の店舗を統括する稗島大督さん。
 2店舗目の「SUNTENGUYA PLUS」店では、「ジェリービーンズ」「クライム」「デュラス」といったケミカルブランドが中心。赤を効かせたポップな内装やソファなどで、知り合いの家に来たようなゆったりした雰囲気で靴選びができる。
 ゆめタウン八女店はアウトレット専門店として位置付けている。



人材育成に力を入れ 半年に一度のイタリア研修も

 どの売場を見ても目に入るのは、きびきびと立ち働くスタッフの姿だ。現在の社員数は約50名で、ここ4年ほど毎年地元の大卒、高卒の新入社員を採用している。地元出身の若手を招き入れ、ひいては久留米で活躍する人材を育てたいという想いもある。
「接客に関しては『アナログ販売が基本』という社長の考え方を受けて、マニュアルを設けていません。一人ひとりが持つ個性を重視して、ベテランがていねいに教え、本人もスタッフの接客を盗み見て覚えていきます。社長が売場のシフトに入っているくらいですから、覚えないわけがないです」と大督さん。
人材教育には特に力を入れており、店長やバイヤーには半年に一度のイタリア研修の機会がある。高単価なインポートブランドを扱うのであれば、お客さまとそれなりの対話力や経験値も必要という観点からだ。
 また女性が働きやすい会社を目指し、出産後に復帰できる体制づくりを整え始めた。実際に売場に戻ってくるスタッフも増えたという。これからは、男性だけでなく女性店長をしっかり育てて行きたいと意気込む。
「靴業界の低単価化がこのまま進めば、自分で自分の首を絞めることになりかねない。安さでお客さまにいくら『説得』して買っていただいても、『納得』しなければリピートはしてくれません。靴は『ファッション』と『ファンクション(機能)』の両輪があるから面白い。その靴がどんなバランスなのかを理解することが、接客するときには大切なことだと思っています」(稗島社長)。
 来年春には、本店がリニューアルオープンする。大人のレディススニーカーコーナーを意識した売場づくりなど、トレンドへの意識も欠かさない。福岡という大都市と隣接する街ではありながら、地元重視の姿勢でほかの地域への出店攻勢に走らず、じっくり人材を育てるところに、同社の経営戦略の基本がある。