今月の記事・ピックアップ 2014・11
 HOME > フットウエアプレス > 元気な地方専門店のいま 菅原靴店 (岩手・盛岡市) 
元気な地方専門店のいま
菅原靴店 (岩手・盛岡市)
インポートの靴、バッグ、雑貨をトータルで展開するセレクトショップ

老舗靴店の飛躍のカギは海外見本市での直接仕入れ

 JR盛岡駅から東へ開運橋を渡って進むと、街の中心部にある大通商店街が現れる。そのほぼ中央に位置する菅原靴店は創業1950年の老舗靴店で、「質とはき心地のよい靴」にこだわり、良質な革靴を扱ってきた。現在は三代目である代表取締役の菅原誠さんが、バイイングと店のトータルディレクションを行っている。
 店舗の外装は一見すると、商店街立地によく見られる昔ながらのファサード。だが、ショーウインドーの中には、高級なイタリア製の靴やジャケット、革小物やアクセサリーまで、1点もの感覚の個性的なアイテムがセンスよく並んでいる。都内の百貨店で見かけるようなクロコのシューズやエレガントなバッグなどは、ここが盛岡であるということを一瞬忘れさせるほど。
ここまで贅沢にインポート商材が並んでいる売場は、全国でも珍しい。30万人都市の盛岡の街で、このマニアックな業態をつくるに至るまではどんな道のりだったのか。菅原社長に聞いた。

3フロアの店舗で、5万円までの商品を展開

 1階から3階までが菅原靴店の店舗になっており、3フロア合わせて130坪ほど。入り口を入ると縦に長い奥行きのあるレイアウトになっている。1階の右半分には、レディスの国産ブランド(卑弥呼、クロスロード、エイゾーなど)とインポートカジュアル&エレガンス(エミュ、マナス、プロジェットなど)、レディススニーカー(ノーネーム、ストックトンなど)が並ぶ。
左半分はメンズスニーカー(パトリック、パントフォラ ドーロ、ディアドラなど)、インポートビジネス(クロケット&ジョーンズ、パラブーツなど)、インポートカジュアル(ステファノガンバ、ストックトンなど)、メンズバッグ(ペッレモルヴィダ、アニアリなど)で構成されている。
2階は「Piace?」という、レディスのハイブランドのインポート売場。シューズ(ファビオ・ルスコーニ、ペリーコ、サルトルなど)、バッグ、アクセサリー、アウター類がセレクトされている。雑誌「ストーリー」で活躍する著名スタイリストとのコラボアクセサリーも、国内でのリアル店舗は菅原靴店のみの取り扱いというレア度だ。また2階奥ではフランチャイズで「ヨシノヤ」を展開している。
3階は「Per noi」と名付けられたメンズ売場で、“LEON系男性”に特化したイタリア製のジャケットやパンツ、服飾雑貨が並ぶ。また宮城興業(山形・南陽市)のオーダー靴コーナーも併設されている。平均上代は、メンズ靴で2万5000〜5万円、レディス靴で1万5000〜4万円。


イタリア靴との出会いとバイヤーとしての自信

「2000年に、イタリアの語学留学から日本に帰国しました。当時は、父が経営していたこの店も時代の厳しい風にあおられ、あまり元気のない状態でした。新たなバイヤーに就任したそのころ、ちょうど『コギャルブーム』という空前の厚底ブーツブームが巻き起こり、この波に乗らなければ、と思ったのです。そこで大量に厚底ブーツを売りまくり、会社も元気を取り戻したかに見えましたが、従来の上質なお客さまを失ってしまい『自分は何のために戻ってきたのか?』と自問自答しました」(菅原誠社長)。
バイヤー就任後しばらくして、ある知り合いの靴店が魅力的なイタリアの靴を販売していたのを見て、「こんなの売れるのですか?」と尋ねたところ、「やってみたら?」と勧められた。少しずつ売場に置いたところ、1ヵ月ほどで完売した。このことが、菅原靴店にとって大きな転換点となった。
そこから、持ち前のイタリア語を生かして海外の見本市などで靴やバッグを直輸入するようになる。本店のМDも、インポートとこだわりの国内ブランドに徹底して絞り込んでいった。前職で広告やマーケティング関係の仕事をしていたこともあり、インポート商材を扱いたいと考える売場に、商品を導入するに当たって、スタッフに対するアドバイスなども行っている。
「直接靴職人やデザイナーから話を聞いて仕入れることで、商品の本当のよさをお客さまに伝えることができるようになりました。しかし、インポート商材はロットが大きく、在庫があっという間に膨れ上がる。『このままではマズイ』と思った矢先、あるきっかけで楽天市場の存在を知り、5年前からネット販売の波に乗ることができました。イタリアのトスカーナやプーリア州の個性的な靴を求める日本全国の男性に向けて、商品を届けることができるのは嬉しい限りです」。
 菅原靴店のリアル店舗とネットショップのコンセプトは、あくまでも「靴」を主軸としてバッグや雑貨、アパレルをセレクトする姿勢だ。服からМDを考える一般的なセレクトショップとはスタンスが違う。このスタイルに共感して、リアル店でもネットショップでも基本的にはリピーターの方が多い。

「価値ある体験」を重ねて接客に生かす

 菅原靴店は高級ウエアにも進出、「SARTO」のスーツ、「Blu Bre」のストールのセミオーダーなどほかにはないブランドのオーダー会も実施して、個々の顧客との顔の見えるつながりを大切にしている。とはいえ、高級商材だけにリアル店舗の顧客は限られた富裕層だけに限られるのではないだろうか。
「確かに最近では『この程度でいいや』といった、特別なものを求めない価値観が若者を中心に徐々に広がっていると感じます。お客さまにも『せっかく買っても着ていくところがない』とおっしゃる方もいます。そこで年に数回、店内でパーティーを開催しているのです。売場を飾り付けてシャンパンを飲んだりするのですが、『いいものを着ていく場』や『欲する機会』をつくることも我々の役目かなと考えています」。
こういった商品を販売していくためには、スタッフの力も欠かせない。接客は親近感が持てるように心がけ、商品にプラスして、おいしい食べ物の店や雑貨店、楽しいイベント情報など何かもう一つを顧客に提供する。社員同士の交流にはなるべく投資する。高級フランス料理店に行く、ときには出張時にグリーン車を使ってレポートなどを書くなどさまざまな体験をしてもらい、それがゆくゆくは接客に生かせるようになることを期待する。
スタッフが、顧客の気持ちに寄り添うことができなければ最後のひと押しは難しい。「こちらが絶対おすすめです」と言い切れる自信を身につけてもらうためにも、目に見えない「価値ある体験」の積み重ねが重要だと菅原さんは語る。


「アドボート」活動で漁師を支援

 また、菅原さんはプライベートでは大の釣り好き。漁場が豊富な岩手県だが、先の震災で多くの漁師が被災した。菅原さんも靴を被災地に送り、寄付金を募る活動を行ったが、寄付が生かされたという実感がない。そこで新たに支援プロジェクト「アドボート」を立ち上げ、漁師たちを元気にする活動を行っている。
これはF1カーのように、漁師の船にアドバタイジング(広告)を描くというもの。国内や海外の取引先から寄付金という形で広告を募り、その企業のロゴを漁船に描くことで、寄付金の8割は船を所有する漁師が受け取る仕組みである。
「最初は『船は白いものだ』と漁師さんに大反対されましたが、若い漁師がやりたいとスタートすると、周りの人にも徐々に広がり、合計165隻の漁船に広告を付けることができました」と笑う。
 こうした支援活動に限らず、菅原さんの柔軟なアイデアは、どんな逆境下でも視点を変化させることで新しいチャレンジへとつながっている。盛岡発のユニークな試みにこれからも期待したい。


◆「菅原靴店」岩手県盛岡市大通2−2−12 
TEL: 019・622・4326
HP: http://www.sugawara-ltd.com