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元気な地方店の今  「イバラキヤ」(大阪・高槻)

ファクトリーブランドのインポートを、ホスピタリティ接客で販売する元気店

 大阪・高槻市は、政令指定都市である大阪市と京都市のちょうど中間に位置し、北摂のベッドタウンとして発展した。人口35万人、大阪府の平均と比べて小売業やサービス業、とくに飲食店や服飾店が多いのが特徴である。
JR高槻駅界隈と阪急高槻市駅の間に広がる商業エリアには、西武、松坂屋などの百貨店や商業施設が並び、都心部まで出なくともこの界隈でショッピングを楽しむ人も少なくない。
この高槻市で、ちょうど百年前の1914年に創業した老舗靴専門店「イバラキヤ」は、地元密着型の靴店として発展してきた。三代目となる吉田敦さんは、3年前に若くして社長に就任。三代続いた店の歴史と伝統を踏まえつつ、新しいジャンルにも積極的にチャレンジしている。
“大阪で元気な専門店”の代名詞とも言えるイバラキヤのいまと未来について、吉田社長に聞いた。

インポートで靴の奥深さを伝える

イバラキヤは現在、実店舗が7店舗、2014年8月からスタートした楽天市場のネットショップが1店の、計8店舗を運営している。本店はアーケード商店街である高槻センター街の中心部に位置し、1階がレディス、2階がメンズの2フロア構成。
阪急高槻駅の駅ビル「ミング」には、「あしながおじさん」とセレクト型の「アイエス・クラブ」の2店舗を展開。また本店の隣となんばシティ、西宮ガーデンズに「リーガルシューズ」FCを展開する。ほかに近隣の茨木市駅ビル「ロサヴィア」内でレディス店を運営している。

郊外の商店街立地にも関わらず目を引くのは、本店1階に並ぶ高額のインポートシューズの数々。イタリア、スペイン、ポルトガルなど、ヨーロッパの展示会で買い付けたアイテムが所狭しと並べられている。「ヒスパニタス」「レペペ」「アート」「フランチェスコ・モリケッティ」「マリープ」といった、知られざるファクトリーブランドをそろえているのが大きな特徴だ。デザインも個性的で、客層もかなり絞り込まれるようなアイテムばかり。
国内取引先は、ラマーレ、ラボキゴシ、クロスロード、オギツ、モーダクレアなど。
「イバラキヤは、先代の時代から革を中心に扱ってきましたが、私が社長に就任してからは、レディスのインポート商材を強化し、最近では商社を通さずにミカムなどの展示会で直接買い付けをスタートしています。いまは全体の3割程度がインポート商品になりました。レディスの平均単価は2万円前後ですが、インポート商品は7、8万円のものもあります。あえてイバラキヤでしか買えないクセのあるものをそろえることで、お客さまに靴の奥深さを伝えて、“これって何?”と思って頂けるためのサプライズ感を提供したいと考えています」(吉田社長)。
もちろん大阪や京都市内まで行けば大型店やセレクトショップも潤沢にある。しかし、ゆったりした空間で、知識と接客力が高いスタッフからはき良い靴を提案してもらえる売場は、実際のところさほど多くはないだろう。
吉田社長はこの立地で商売をするには、商品ではなく“まず接客ありき、人ありき”と考えているという。

“フィッティング”が完璧な店を目指す

吉田社長は大学卒業後、東京のアパレル企業に就職し、9年前にイバラキヤに戻ってきた。「最初は東京との違いに愕然としたこともありましたが、それを逆手に取って新しいことをやっていこうと考えました」。
スポーティーアイテムが流行れば、逆にヒールもののエレガンスを増やそうと考え、ブーティが流行ればロングブーツをそろえるようにしたと言う。「流行に流されたくないというお客さまはいつの時代にも一定数いるので、そういった方々に発信していこうと思っています」。顧客をしっかりつかんでいる地元密着型の専門店だからこそできるMD発想である。
「この対応で重要なのが『接客力』です。まず販売のプロとしての自覚を持ってもらうために、販売員は全員正社員です」。
ぶれない接客力を磨くため、総勢36名のスタッフが週に一度、素材や色、トレンド傾向、足のトラブルについてなど、幅広い知識を得るための勉強会を行っている。特に『フィッティング』を重要視している。「お客さまにはサイズが合わないものはお勧めしません。足にフィットしていなければ二度と来店されないので、“あの店はフィッティングが完璧”と言われるように意識しています」。
確かに靴ははき心地が重要だが、意識しすぎると在庫過剰になったりはしないのだろうか。
「お客さまの好みの靴だけでなく、こちらが“はいてもらいたい、挑戦してもらいたい靴”を提案できる販売員になろうと話します。また最後の一足になった商品は販売が難しいと思われがちですが、これを臨機応変に売ることができれば接客はとたんに面白くなります。在庫を頭のなかにいつも入れておくことが重要ですね」。
お客が関心を見せない商品も、接客しているうちに買い上げに繋がることもある。「そうなれば、お客さまはその販売員のファンになり、提案するものは何でも受け入れてもらえます。お客さまから逆に感謝されるようになります」と吉田社長は笑う。


“プロデューサー”でなく“販売員”であれ

吉田社長は、靴店販売員に“販売という仕事は素晴らしい”ということを伝えていかなければと考えている。最近は資本力のある靴メーカーが直営店を展開し、スタッフ教育も頑張ってきているのは脅威という。しかし、フィッティングが最も難しく、また面白いエレガンス商品では負けない自負がある、という。
イバラキヤの“人作り”はユニークだ。社内会議では若手スタッフが意見を言いやすくするため、月に一度は“幹部の出席しない会議”を行っている。ここでは、例えば「新規会員をどう増やすか?」などのテーマを与えて意見を求め、出た意見はどんどん実行させている。またスタッフ間のチーム力を大切にするため、最近ではあまり見かけなくなった社員全員での慰安旅行を実施している。
一方、ベテランスタッフには、現場感覚を忘れないでほしいと、吉田社長は言う。
「ついバイヤーばかりしていると、机の上だけで考える“プロデューサー”になってしまいがち。そうではなく、あくまでもお客さまが喜んでくれることを考える“一販売員”であることを忘れるな、と日ごろから口を酸っぱくして話しています」。

女性が求める「カッコ良くて履き易い靴」

 今後のイバラキヤの展望について聞いた。
「お客様に安心感を与えるために、これからはシューフィッターを各店舗に一人ずつ置いていきたい。そういう意味でも日々の足と靴の勉強会は更に重要になるでしょう。少子高齢化の波が来ているとはいえ、いわゆるコンフォートショップにするつもりはありません。あくまでもすべての年代の女性たちにとって、“カッコよくてはきやすい靴”を提案するのがイバラキヤのミッションだと考えています」。
幾つになっても女性は、自分をスタイリッシュに見せる靴を求めている。女性にとってピッタリのシンデレラシューズに出会えるような店にしたい、と意気込む。
 「最近は、やはり自分の父親のようになりたい、と思うようになりました。人としての魅力にあふれているだけでなく、世界で一番靴が好きな人。自分はまだまだですが、いつかそんな人を目指します」。三代目の挑戦がこれから楽しみだ。

(株)イバラキヤ=大阪府高槻市高槻町15-18、TEL:072−685−1340
 http://www.ibarakiya.com/