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元気ショップ
my shoes factory-HAKU89(マイ・シューズ・ファクトリーハク89)
「足に合った一足」がその場でできるセミオーダーシューズ専門店


 2014年12月にオープンした「イオンモール岡山」。356の専門店が入居し、従来のような郊外型立地ではなく、地下は岡山一番街や岡山駅と接続し、地下2階・地上8階建ての多階層都市型モールとしても大きな話題となった。
  特徴的なのが、5階に設けられた開放的な「ハレマチ・ガーデン」と、岡山の地場のモノづくりを集めた「ハレマチ特区365」。特に5階フロアでは、岡山らしさやモノづくりの楽しさを打ち出したユニークな編集になっている。白を基調にしたシンプルな外装。ぬくもりある売場(右)と、あえて無機質な工房(左)とのコントラストがマッチ
  このフロアで、「my shoes factory HAKU89(マイ・シューズ・ファクトリー・ハク89)」をオープンさせたのが、中山靴店グループ代表の中山憲太郎さん。岡山・玉野市や倉敷市など県内に5店舗を構える、コンフォート&オーダーシューズ専門店の三代目だ。



おしゃれなベーカリーをイメージした店づくり

 ホワイトを基調にした売場には靴の什器だけでなく、さまざまな計測機器が備えてあり、左側に併設された大きなガラス張りの工房が目立つ。地元メディアにもしばしば登場し、午前中から多くのお客でにぎわっている。
 工房内部。靴を作るためのさまざまな機械が並び、ガラス越しに作業風景を見ることができる ユーザーがその場で足を細かく計測してもらい、好きなベースデザイン(アッパー、アウトソール、インソール)とパーツを選び、最短で30分ほど待つだけで自分の足に合った靴をつくってもらえる「その場メイド」のセミオーダーシューズ・ファクトリー(特許出願中)である。
3D足型計測機で計った結果をもとにサイズを決定し、靴を吊り込む状態から足に合わせて調整できる。足のトラブルに応じた微調整や、左右別サイズなども可能だ。既成の靴が合わない人や疾患のある人などから喜ばれているというが、特殊な事例だけでなく、気軽に自分らしい1足をつくりたいという人も足を運んでいる。
 リネンの白衣に身を包んだ若手スタッフが、一人ひとりの足の状態をヒアリングしながら、最適な靴を組み立てる。工房作業はユニークで、ベルトコンベヤーに乗った靴が乾燥マシンなどを通って靴になるプロセスは、見ていて飽きない。
中山靴店グループ代表の中山憲太郎さん  「イオン側から最初に依頼が来たときは、全く出店など考えていなかったのですが、フロアコンセプトに『岡山のモノづくり』という点を熱心に強調されていたことが気になりました。開放的な屋上ガーデンもよい雰囲気だったので、オープンを決めたのです。ホワイトとステンレスの工房に、靴を置く木の什器など、実はおしゃれなベーカリーをイメージしています。できたてのパンが工房から運ばれてくる時ってワクワクしませんか? 靴も『出来ましたよ』と運ばれてくると楽しいのでは」(中山憲太郎さん)。
  コンフォートのオーダーシューズというとシニア向けのイメージになりがちだが、あくまでもスタイリッシュで若々しい雰囲気を重視。客層も20〜70代と幅広く、男性も3割近くという。サイズは22〜25・5cmまでに対応しており、客単価は約2〜4万円程度だ。

サッカー少年から靴づくりへと転身

 中山さんはもともと実家の靴店を継ぐつもりはなく、大学4年のときにはプロサッカー選手になるためにアルゼンチンに留学していた。しかし、ケガが原因で帰国。その後はメキシコに渡り、靴の製造工房で手縫いの靴をつくって働いていた。
  「24歳で帰国して実家の靴店を継ぐことを決めました。メキシコでの工房体験から『手縫いの靴がカッコいい』とこだわっていましたが、既製品に囲まれた売場での日々を経て、自分のつくった靴を少しずつ客観視できるようになりました」。
  当時は寝る間も惜しんで中敷きの研究や靴づくり、足の勉強などにいそしんだ。徐々にモノづくりに対する興味に加えて、足のことや人体の解剖学を学ばなくてはいけないと思い始め、東京・池袋にあるドイツ靴のマスターのもとに岡山から通う日々が始まった。
 その後、ドイツ国家資格ゲゼレ(整形外科靴職人)の資格を取得し、独自のフルオーダー中敷きの制作などを新たにスタート。岡山市内の百貨店にイベント出店したときは、4坪で800万円を売り上げたこともあるという。そのまま岡山、倉敷の百貨店内に出店し、最近では岡山の県庁通りに修理工房もオープンしている。
現在は仕事と並行して新潟医療福祉大学大学院に通い、オーダーメイドシューズのシステム化について学んでいる。13年には岡山県の「オカヤマアワード小売部門」を受賞した。

不可欠なカウンセリング接客

  キャリアを積む中で、一度燃え尽きてしまったことがあったという。しかし、今は「お客さまからいただく『ありがとう』という言葉が、心にしみるのを感じるようになった」という。このころから、困っている方に届けるきちんとした靴をつくっていこうと決心したという。
 現在、売場スタッフのほぼ9割が正社員。オーダーシューズや靴づくりに興味のある若手が増え、中山さんを慕って入社してくれるようになった。ただ仕事は厳しい。靴がつくれるだけでなく、足や靴の知識、さまざまな疾患、歩き方などを頭に入れながら、お客のライフスタイルや要望を引き出す、「カウンセリング型」接客が不可欠だ。この接客力が中山靴店を支えている。
  「スタッフにはさまざまな人材がおり、配置には適材適所を心掛けるようにしています。今は国内5社ほどのメーカーと協力体制を敷いていますが、まだまだ足りません。小ロット多品種が可能なメーカーと取組みたいと思っています。そして将来的には、フルオーダーで5万円以内の靴がつくれる仕組みを考案し、いずれはこのショップがヨーロッパで評価されるようになることを夢見ています」。
 中山靴店のオリジナル・オーダーシューズブランドは「ラ・マノ・デ・ケン」。「ケンタロウの手」という意味で、「手でこしらえる、足もハートも喜ぶ靴づくり」がコンセプト。工房には中山さんが自ら削り出した木型も置かれている。


◆my shoes factory-HAKU89
 岡山市北区下石井1−2−1−5017 イオンモール岡山 086・206・7289
HP http://www.haku89.jp