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 特集 女子力が動かす 
事例取材 活躍する女性
  
(シューズパレッタ西葛西店 店長)

女性の気づきで、チヨダの接客レベルを高めたい


社内資格「シューズアドバイザー」制度がスタート

 チヨダ(東京・杉並区)の女子力活用の動きは、昨年から接客の面で具体化している。
昨年10月から、社内資格制度である「シューズアドバイザー」のテストを開始している。同制度は、販売員としての身だしなみや接客の基本動作、態度、技術などから、靴の商品知識、フッティング技術まで販売に必要な基本的なことを学び、試験を行って資格を与えるもの。次に実技を必須とする「シューズアドバイザー・マスター」へと進む。この制度は、足と靴と健康協議会(FHA)が認定している「シューフィッター」取得者の増加施策にも位置付けている。
  同社では定期的に行われる接客研修はなかった。このため、接客レベルは地区マネジャーの指導の仕方次第という面があり、「シューズアドバイザー」からの一連の資格取得は、接客レベルを全社で統一し、さらにスキルアップした接客をしようという目的がある。
 すでに40名ほどのシューフィッターが誕生しており、早い段階で100名ほどのシューフィッターを置いて、接客販売に取り組む計画だ。

テキスト作りのチームに女性2名が参加

接客販売のスキルアップの第一段階である「シューズアドバイザー」。そのテキスト作りは、昨年6月からスタートしている。この立ち上げチーム8名の中に、2名の女性社員が参加した。その一人がシューズパレッタ西葛西店(東京・江戸川区)の山口久美子店長(39歳)である。今年で入社20年、店長になって10年目を迎えるが、シューフィッター認定者であることや、SC内店舗の店長をしていたときに、ロールプレーイング大会の地区大会にまで出場した実績が買われた。
  A4版60ページのテキストが社員の手で作られたが、この中で山口さんは販売スタッフのチェックシートづくりなどを担当した。ここで女性ならではのチェック内容になっている。
  「ネイルの使用と髪の毛の色の基準が、男性社員と意見が異なりました。爪は清潔であることは当然ですが、ネイルをしていたほうが、レシートを渡すときなど女性客には好印象を与えます。髪の毛の色も、カラーチャートのブラウン5までなら、お客さまに対しては許容範囲です。また、冬場の冷たいソファーにブランケットを敷くことや、ミニスカートの女性に膝掛けを用意することも女性目線のチェック項目です」と山口店長は話す。

接客は「同調し、確認する」こと

  山口さんが店長を務めるシューズパレッタは、昨年から展開が始まった新業態で、現在8店舗ある。ファミリー志向のフルラインだが、チヨダ業態よりアイテム数を絞って、サイズに厚みを持たせており、売場は明るく、女性目線に立った店づくりに取り組んでいる。西葛西店も女性客が6割を占め、新規顧客も取り込んでいる。また、小さな子供も入り易い売場になっており、客単価はアップしている。
  ここで山口さんが心がけている接客は「お客さまに同調し、常に確認をすること」という。同調するとは、「靴をはくことで足が痛いという人に対して、『こうすれば痛みがなくなります』と言うのではなく、『大変でしたね』と、まず相手の立場に立って痛いことを聞いてあげ、足の痛みを理解しながら会話をすべきだと考えています」と説明する。
  山口店長は昨年、シューフィッターに認定されているが、ここでの知識も同調接客に役立っている。「例えば、足底筋膜炎のお客さんがハイヒールをはいた時の辛さを訴えて来た時など『朝の起き抜けが辛いでしょう』と、より痛みを理解してあげることで、治療することはできなくても、お客さんとしては話してよかったと思われます」。
  また、確認とは「お客さまから『ウォーキングシューズが欲しい』と言われたとき、ただサイズと色をお聞きして渡すのではなく、『いつ、どういう場面ではくウォーキングシューズですか?』『旅行ではきますか? レストランに行かれますか?』などと、求めているものを深く追求し、確認することで、お客さまの感動につなげていくことに心がけています」という。

接客を通してお客の声を拾う

  山口さんが実践する接客は、300名以上集まった関東地区の店長の前で、ロールプレーイングのかたちで発表された。チヨダにとっては今期からスタートした企画であったが、見ていた男性店長の中には「あそこまでの接客は、やりすぎではないか?」「時間的な問題もあり、あそこまではできない」というような反応もあったという。
   「シナリオは作りましたが、決してパフォーマンスではありません。売場で実際に行っていることですし、まだまだやるべきことはあり、ほかの店でも実際に取り組んでもらいたいことを演じました。他業種のロールプレーイングを見れば、もっとやるべきことが多いことに気づきます」。
女性としての気づき≠接客の面で、多くの店長を前に、ロールプレーイングで見せた山口店長。現状では接客を指導する専門部署はないが、店頭での接客を通して、お客さまの声を広く伝える役目をしたいと考えている。
  山口さんのような姿勢でお客さまと接することは、女性目線で店づくりに取り組んでいるシューズパレッタの多店舗化を援護しそうだ。同業態は30店舗の展開が決定しており、その後も拡大する計画だ。ここではMDや接客の統一で、ショップ・ブランディングを図る考えだ。



「HaNT」開発チーム(エース) (エース)

女性開発チームがリアル目線でつくったスーツケース


「私が本当にほしいスーツケース」をつくる

 「女性の、女性による、女性のためのスーツケース」が昨年4月に発売され、人気を呼んでいる。旅行に積極的な25〜30代前半の女性客獲得を目的に、創業以来初となる女性開発チームが発足された。このプロジェクトがスタートしたのは約2年前の2013年4月。開発メンバーは、商品企画、マーケティング、生産、資材など各部署から選抜された若手女性社員6人。企画から市場調査、資材調達、生産、PRまでものづくりが完結できるメンバーが集められた。
  最初に、「売れなくてもよいから“自分たちが本当にほしいと思う”女性用スーツケースを作るように」という指示があった。
  まずはコンセプトづくりからスタート。6人の選抜メンバーはそれぞれメインの仕事を持ちながらのプロジェクトなので、スケジュール調整がたいへんだった。それならとランチミーティングで、さまざまなことを決定していった。また、開発チームにはあえてリーダーをつくらなかった。それは、6人が同等の立場で自由に意見を出し合い、試行錯誤のうえ、熟成させ、全員が本当にほしいものとして統一するまでは先に進まないという意図があったためだ。
 「それぞれの部署の意見を聞いて持ち寄り、これではいけないのではないかと迷うことも多々ありました。そんなときには、もう一度原点の『私が本当にほしいスーツケース』をつくるという原点に戻るようにしました」(MD本部商品企画部デザイナー・久世温子さん)
コンセプトをまとめるまでに時間がかかり、販売するまでに約50回もの会議を行った。
 ブランド名を「HaNT」(ハント:Have a Nice Time)、アイコンを蜂、シンボルを六角形に決定。蜂の巣や6人のメンバーからイメージした六角形のシンボルも、正六角形にしなかったのは、それぞれの個性を表現したかったというこだわりからだ。
 14年4月に発売したのは2型3色。カラーではピンクをはずした。女性=ピンクというイメージがあるが、ターゲットとする女性層は、ピンクよりレッドの方が持ちやすいのではと考えたからだ。機能やデザインの一つひとつにまで女性目線が行き届いた。本体のカラーごとに異なるオリジナルの内装プリントも、女性ならではの目線だ。計画の10倍もの売上げを達成し、プロジェクトは大成功を収めた。今年3月には新色のビオラネイビーを発売する。
 「モノづくりがこのように始まって、最終地点まで関われたのはとても貴重な経験です。今後のモノづくりに向けてもっと視野を広めていきたい」「モノづくりは気持ちを込めるほどによいものができると実感しました」という成果につながった。
「ハント」は新メンバーによって、第一世代のDNAを受け継ぎ、さらに進化したものづくりが展開されている。

リアルターゲットでの商品開発にこだわる

  加来剛・常務取締役MD本部長は、チームがつくられた理由を、こう述べている。
「バッグというものづくりをしている当社ですが、F1層(20〜34歳までの女性)に向け本当にほしいと思ってもらえる商品がつくられているか疑問を感じていました。F1層は志向がつかみにくくものを売っていくうえで難しい層です。本当にリアルターゲットが見えるのは同世代なので、当社の若手女子社員を選抜して、このプロジェクトをスタートさせました」。
  与えたテーマは、旅、特に海外旅行用のバッグで、「私が本当にほしいスーツケース」だけである。「売れなくてもいい」ともいった。社内でも公のプロジェクトではなく、加来本部長が各部署のトップに許可を取りスタートした開発チームだった。
  「社内で公になると、女性向けならピンクを入れよう、アイコンが蜂では可愛くないのでは、このデザインはどうなのなど、さまざまな情報に惑わされ、結局、彼女たちの本当にほしい商品ができない環境になると考えたからです」。
 加来本部長自身は開発に一切口出しをしなかった。
「彼女たちは若手社員だけでとても不安だったと思います。議事録を見ると、行ったり来たりして迷っている部分が見えました。何回も『本当に売れなくてもよいですか』ということを聞いてきました」。
そのたびに売れなくてもよいと念を押し、方向を踏み誤っていると思われたときには「本当にほしいスーツケースをつくりなさい」と助言した。
  彼女たちが成功したことは、同世代の人たちの励みにもなり、また刺激にもなった。プロジェクトが大成功を収めたのは、厳しくも温かく見守る本部長の存在と、ものづくりを愛してやまない女性たちの力によるものだろう。