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ISF パネルディスカッション ハイブリッドパンプスのつくり方・売り方
 パネラー
  石川順一氏(石川製靴 代表取締役社長)
岡城義夫氏(神戸レザークロス KLCクラフトラボ 卸事業部 製造・ラスト 課長)
澤純也氏(西武池袋本店 婦人雑貨部 バイヤー)
宮崎親夫氏(チカオ 代表取締役社長)
鳥居寛之氏(ミッツプランナー 代表取締役社長)
 コーディネイター
 池田正晴氏(ジャルフィック 代表取締役社長)


池田 今日はそうそうたるメンバーにお集まりいただきました。それだけに、テーマの深さ、重要さを感じています。このセミナー会場の入口前にブースがあって、ハイブリッドパンプスのコレクションを展示しています。ハイブリッドパンプスの登場をきっかけに、レディスシューズは大きく変化しようとしています。パンプスは女性の美しさを引き立てるものですが、快適さときちんと感を置きかえると、ハイブリッドパンプスになるというのが結論です。
 市場は、スニーカーで活性化しており、ラグジュアリーブランドが、2万円後半から6〜7万円もするスニーカーを発売したということが話題になっています。靴業界に生きる我々としては、次の3つを目標にしたいと思います。@スニーカーの台頭をパンプスの革新の契機とするA高機能型シューズとしての対応策の提示B生活シーンの動機づけとなる機能の探求、がそれです。
 まず、ハイブリッドパンプスとコンフォートシューズとはどう違うか、また美意識について考えてみましょう。最初に、ハイブリッドパンプスについて皆さまのお考えをうかがいたいと思います。

それぞれの立場から見たハイブリッドパンプス

石川 どうしたらはきやすい靴をつくれるか、考えながらやってきました。原点に戻ってラストから考えると、近年の女性の足型は生活様式の変化によって中足骨が落ちて偏平足になってきています。今までのグレードでは合わなくなってくるのですが、これに中底、ヒール、パーツなどで工夫することによってさらにはきやすい靴が作れると思います。試しにねじれるほどやわらかなパンプスをつくりましたが、まだまだ開発の余地はあると思います。
池田 西武池袋さんにおけるスニーカーのブームは、どのようなものなのでしょうか。
 百貨店は扱いアイテムがカテゴライズされていて、スニーカーはスポーツ売場にあります。しかし、現状ではスニーカーをアパレルショップでも売っています。靴売場では、カジュアルはがんばっても売上げシェア2割で、単にスニーカーの売場を広げても売上げの拡大は難しいです。
池田 靴のカテゴリーが変化し、ドイツ製のコンフォートシューズなど中間領域の靴が増えてきました。
 ドイツのコンフォートシューズは「これしかはけない」ところにまでたどりつきます。スポーツシューズメーカーでは、ニューバランスのようにモールド底のパンプスをつくっています。スポーツを科学的にとらえ、これまで培った情報をもとにパンプスをつくっているのです。ハイブリッドパンプスの定義とは、デザインとはき心地の融合です。店頭では、お客さまはほしいシーンの靴を手に取ります。機能性ははいてみないと体感できない。入口はデザインからです。
池田 鳥居さんがこのデザイン画に託したこととは。
鳥居 コンフォート性が必要不可欠になってきました。わかりやすいのはインソールだと思って提案しています。美しさとはきやすさの両立は、あくまでファッション性を重視したインソールを開発することにあるのかと思います。
池田 スニーカーの進化を見ると、ナイキ以降スポーツの機能を可視化していることに気づきます。機能をコンパクトに表現、複雑な素材を精緻な技術で複合しています。村井さんのアウトソールは早く歩くタイプ、立ち仕事のタイプ、全対応と車のタイヤのように進化していて、スニーカーの快適性を靴に表現するための努力をしていることに驚かされます。チカオさんがゲルのインソールを発表したときにも、質感的、視覚的にインパクトがありました。
宮崎 インソールには機能性を高めたもの、薄いもので見え方が変わらないものを要求されます。華奢なつくりの中で、コンフォートと同じ機能を求められるのです。機能はどんどん進化しています。先週中国の工場を回りましたが、すべての面で進化しています。世界を相手に商売をしているからで、日本も国内だけ考えていると会社がもたない時代になりました。
池田 木型についての考え方を教えてください
岡城 ヒールのあるパンプスでは、前に滑っていかないことが大きなテーマで、カップのところ(※)を6mm掘り下げたものを提案しています。中底はウレタンを成型したもので、木型とセットで販売したところメーカーから大きな注目を浴びました。
 パンプスは女性にとって欠かせないアイテムで、7〜8pのヒールでも前に滑らないもの、屈曲性のあるものが要求されます。機能と美しさをミックスしたもののニーズが高まっています。
 ※かかとの足底部が当たる箇所

販売段階では、販売員の接客力がモノをいう

池田 通販やネット販売では、快適さの根拠を示したい。ビジュアル的に表現できることが求められているのです。市場も変わっています。この靴が目標とするカテゴリーは何かを考えてみましょう。パンプスで考えると、生活パンプス、働くパンプス、日本のパンプス、未来のパンプスなど考えられ、相当新しいカテゴリーが出てきます。靴の向こう側にある生活のイメージ、どういうワクワク感を準備すればいいのでしょうか。鳥居さんのデザインではどうなのでしょうか。
鳥居 デザインは時代によって変化し、今はトラッドがキーワードになっています。今回のハイブリッドパンプスは、インソールを視覚化することでラストの設計が変わってきます。
 一度スニーカーのはきやすさを覚えた後で、硬いパンプスをはくことはできません。石川製靴さんにはハイヒールタイプに、はきぐちのところにアジャストゴムをつけて、なるべくフィットするようにシャーリングしてもらったり、指の付け根の部分が痛くならないようにストレッチ素材を使用してもらったりしました。ラスト、インソール、ヒール、デザインが複合してハイブリッドパンプスになります。
 ヤングシューズさんにつくっていただいたものは、圧倒的に歩きやすいモールドソールを採用し、トレンドの流れをくむキルティングのアッパーのものと、仕事で使いやすいオペラタイプです。
 そこに、見た目にわかる、低反発のウレタンフォームで成型したスニーカー感覚のインソールや、ウォーキングシューズなどで使用されるカップインソールをファッショナブルに搭載していただきました。
池田 ストレッチ性を高め、ストレスを与えない。美意識と時代性を踏まえ、外反母趾に対する予防的な配慮もあります。日本的な発想が組み込まれていますね。
 さて、ハイブリッドパンプスができても、プレゼンテーションの最終局面である店頭でお客さまに伝わらなかったり、発想がよくても価格の面で受け入れられなかったりします。はっきりした目標設定がないと難しい。澤さん、この先進化版パンプスとして登場が期待できそうな代表的なブランドはありますか。
 各社展示会が続いていますが、ハイブリッドパンプスは店頭のお客さまに伝わりにくいと思います。しかし、同じブランドでも中敷きが立体的な方が売れ筋になるように、中敷きが一つのポイント。そこで、「ハイブリッドパンプスのはきやすいブランド」をアピールするか、「外反母趾の専門家○○先生と開発したハイブリッドパンプス」と訴求するか、この2つの方法で売っています。
 OLさんというと20〜30代のイメージですが、現実的に一番のボリュームは40代前半というのが正直なところです。昔自分がはいていた、ポインテッドトウにヒールの高いパンプスは、もうはけません。でも、ハイブリッドの中敷きが背中を押してくれる。革やはき心地の説得力があれば、プラス2000円、3000円は問題ありません。店頭ではスムースの黒が人気で、色では差別化できませんから、革の質のよさが大切です。取引先にも、「合皮にしたい」というところと「高い素材を使いたい」というところがあり、後者の商品の動きがいいようです。
池田 ハイブリッドパンプスは、売場の中で1万円台後半に設定しているのですか。
 ボリュームは1万5000円以上で、高いものは2万円以上ですが、価格はあまり関係ありません。納得すれば多少高額でも購入に至ります。1万7000〜1万8000円が手に取りやすい価格帯だと思います。
池田 都心の百貨店、地方の百貨店、ショッピングモールなど業態や立地によって状況は変わるのでしょうか。
 販売員の能力が大切です。新卒の人がパンプスを買いに来ますが、自分のサイズを知らない。販売員に知識がないと違うサイズを売ってしまいます。なぜはきやすいか、どうつくられているかを語れなければなりません。駅ビルでの接客を見ていると、デザインから入ってサイズはSMLで売っています。これでは、ハイブリッドパンプスの販売は難しい。

一気通貫のサプライマネジメントをつくる

池田 レディスシューズが大きく変化する時代が来ました。スニーカーが領域を拡張しているこの時期にこそ、ハイブリッドパンプスを考えなくてはいけません。それこそが、我々の業界ができる社会貢献だと思うのです。お客さまは、この感動を求めているのです。
 では、最後にそれぞれの結論をお願いします。
石川 まず、よりはきやすいラストを開発することが重要だと思います。KLCクラフトラボさんがおっしゃったように、ヒールでも足が前に行かないラストなど、足にとってやさしいラスト、中底、パーツをもう一度初心に返って考えたいと思います。
 百貨店婦人靴売場の売上げアップに必要不可欠なのは、パンプス復活です。カジュアルシューズやスニーカーの売上げのシェアは小さい。パンプスの売上げを拡大するパワーアイテムが必要です。
岡城 問題は木型をつくってもよい部材がないことです。中底や返りのいい本底を開発しなくてはなりません。ラスト、中底、本底、その他部材の設計に、欠かせないのが3DCADです。今後は、この開発に取り組んでいきたいです。
宮崎 澤さんのお話にもあったように、お客さまはデザインを見て手に取る。そのデザイン企画はメーカーさんにやっていただいて、副資材として軽く、クッション性の高いインソールを研究したいです。
鳥居 ハイブリッドパンプスをつくる意義、目的のところではみなさん共通の認識を持っています。販売していく場所としては、百貨店が一番でしょう。しっかりファッショントレンドを押さえ、技術開発を行い、一気通貫のサプライマネジメントをつくる。顧客に愛されるハイブリッドパンプスにしたいです。
池田 ハイブリッドパンプスが靴業界を活性化する糸口になればと思います。素材メーカーさんのお話も伺いたかったのですが、それはまた次回に譲ることにしましょう。