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地方の専門店紹介 マルシン靴店(栃木・宇都宮市)

靴好きが集まる、カスタムメイド専門店

宮城興業の靴と出会い、カスタムメイドひと筋に

 マルシン靴店は、栃木県宇都宮市の中心部、ユニオン通りに面した老舗の靴店である。創業は1952年、五十嵐賢代表は、2代目である。以前は紳士・婦人・レインシューズなどを総合的に扱っていたが、10年ほど前から既製靴の販売をほとんど行わず、カスタムメイドの紳士・婦人靴に絞っている。
 紳士靴は山形・南陽市にあるメーカー、宮城興業の「和創良靴」のシステムを使って製造しており、こちらがオーダーの大部分を占める。宮城興業も1941年創業の老舗メーカーで、北海道から沖縄まで全国に130店舗を超える代理店を持ち、そこからオーダーを吸い上げて製造している。栃木県の代理店はマルシン靴店のみだ。
 靴のタイプは多く、120モデルもある。サイドゴアブーツ、ダブルモンク、ウイングチップなどなど、種類も豊富だ。
 「宮城興業さんと出会って、販売をやめました。店頭には400足ほどの靴が置いてありますが、ほとんどサンプルです。ですから、競合他店はなくなりました。接客はまず、どんな理由で来られたかを伺うことから。お悩みがあるのか、どんな用途に使われるのかをお聞きします。それからお好みを聞きます。好みのデザインは伺いますが、長持ちしないタイプはお勧めしません。靴は、ホールド感がよく、足にぴったり合うように調整できるものが一番。お勧めは紐靴です。5年くらいは最低はけるものをお勧めしています」(五十嵐賢代表)
価格はメンズシューズで4万1040円、メンズブーツで4万5360円(いずれも税込)。メンズシューズではあるが、小さいサイズであればマニッシュな女性用靴ともなる。オーダーから出来上がりまでは、約1ヵ月の期間が必要だ。
 アッパーの素材にも、さまざまなものが用意されている。同店が独自にそろえているものも多く、地元の栃木レザーの製品はほとんどある。コードバン、リザード、シャーク、さらには黒桟革(くろざんがわ・なめしの技術でシボを引き出し、漆を塗って仕上げるもので、数々の世界的賞を受賞している)などの最高級品で、ほかでは手に入らない。これらの革は五十嵐代表が、独自に浅草の革問屋を回って一枚一枚吟味して仕入れたものだ。高級皮革を使用する場合は料金がプラスとなる。仕入れた高級革は、合わせてベルトや小銭入れなども制作、余すところなく使い尽くす。


ノーブランドだが、最高級の靴をはく喜び

 顧客名簿には、4000人の名前がある。中には毎年必ず来る人や、一度に数足オーダーする人もいる。高級皮革を使えば8万円にも10万円にもなる靴である。どのような顧客層なのだろうか。
 「お客さまは30〜40代の方が多いですね。皆さん靴にこだわりを持っておられます。左右の大きさが違う、足に悩みがある、ウイズが細いなどの特殊な靴を求めている人も多いです。『こんなバッグを買ったんだけれど、合う靴をつくってほしい』というおしゃれな方もいます。歳を聞くと、30歳でした。革靴のファンは多いのです。一般の靴店と比較すれば価格は高いでしょうが、周囲のブティックではみな10万もする高級ブランド靴を販売しています。靴に対する商品知識も、それほどあるとは思えません。それを考えれば、ソールやトウの形、アッパーの革まで細かく選べ、自分の足にぴったり合った靴は決して高い買い物ではないはずです」。
 確かにブランド品ではないが、クオリティは最高級。しかも、メイド・イン・ジャパンの折り紙付きである。
 「ぜひ女性のカスタムメイド靴も」という声に応えて、数年前からレディス靴の注文も受け付けている。製作は東京・青山に工房を持つカルツェリアホソノで、ヒールも5段階から選べる。
 一足ずつ、ていねいに自分のために靴をつくってくれるこのシステムは、靴好きにはたまらない。「人のやっていることをやっているだけでは、生き残れない」と五十嵐代表はいう。宮城興業もマルシン靴店も、「人とは違う道」を行くことによって、新しい道を見出したといえる。

マルシン靴店
栃木県宇都宮市西1−2−2
TEL 028−633−6050