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「メイド・イン・ジャパン」で勝つ ヒロカワ製靴
 ヒロカワ製靴

世界中から優れた素材を集め
「メイド・イン・ジャパン」のクオリティを創造



 高級メンズシューズブランド「スコッチグレイン」が、注目を集めている。世界から選りすぐりの材料を集め、すべて日本で縫製、組み立てる。スコッチグレインはなぜ、メイド・イン・ジャパンになのか、なぜそれを維持できているのか、廣川雅一社長に聞いた。

自社工場だからこそできることがある

 スコッチグレインの誕生は1978年にさかのぼる。当時は卸が主体で、数多くのアパレルブランドや百貨店のOEMも手掛けていた。79年に現在の墨田区東向島に工場・事務所を移転、本格的にブランディングに取り組み始めた。
 材料は中物とシャンク以外すべて革。よいものにはこだわりがあり、革底・中底はイタリア・サンタクローチェから、ライニングはバングラディシュからヌメ革を入れた。アッパーは日本の山陽やニッピから購入。外国から入れる場合、年間契約でコストを下げるように工夫した。
 製法もグッドイヤーのみに絞り込んだ。革のインソール(中底)には足の癖がしっかりつき、中物(緩衝材)を入れることによってクッション性が生まれる。スコッチグレインはメンズドレスシューズが中心で、価格は1足3万円を超える。だが、修理をしながら5年、10年と長くはけることを考えると、高くはない。
 「海外で製造することはしません。景況が悪くなってしまえば、会社全体に影響します。素材と製法を一本化して価格をコントロールする。見えないパーツまできちんとつくりこむ。自社工場だからできることです。合理化のため安い素材を探すのではなく、生産体制を合理化して素材を下げない。今、これができています」(廣川雅一社長)
 現在、従業員は販売とパートを含め163人。その多くが職人だ。すでに世代交代も進み、平均年齢は40代。先日求人サイトに広告を出したら、300人もの応募があったという。工場では日産430足を生産しているが、ブランドの人気が高まっているため2月からはさらに10足の増産に踏み切る。

売上げを支える8店舗の直営店

 スコッチグレインを支えているもう一つの柱が、自社ショップの存在だ。
 最初のショップは1990年に新橋につくられた。このショップは7年後に銀座に移転するが、その後にアウトレットが4店舗オープンした。プロパーの店舗は大阪、上野に続きソラマチにもオープンし、こちらも4店舗となった。
 アウトレットショップができたのには、理由がある。革を無駄なく使いきるため、また下級の革であっても、その良さを発揮させるためのデザインを考え、アウトレットショップで売り切るのだ。オープン1~2年で余った素材はすべて販売してしまったという。アッパーの革が下級であっても、ライニングや底材は正規店舗で販売されているものと同じである。価格は3割安で、カジュアルなデザインにも好感が持てる。そのため非常な人気を呼んだ。ブランド認知度も高まり、以前から顧客向けに行っているセールイベント(3日間ほど会場を借りて顧客を呼ぶ)用の商品もなくなるという状況になっている。ここ数年皮革の高騰が続いているが、こういうときにこそ、スコッチグレインの技術とアウトレットは威力を発揮しそうだ。
 スコッチグレインは、外国客にも人気だ。東京ソラマチの店舗には「東京に来ると必ずここに寄る」というコアなファンもたくさんいる。国外向けに販路を開拓する計画はないのだろうか。
 「以前、他社と共同で中国にショップを持ったこともありましたが、知名度が今一つで成功せず、1年で撤退しました。以降、国外に販路を拡大することはしていません。コストを抑えるために海外生産に踏み切る企業は多い。けれども、私たちにとっては、海外に行かないことが強みなのです。国内店舗があるからこそ、日本でのモノづくりができる。素材にこだわり、うまくこれを使い、販売する環境を持つこと、これが大切だと思うのです」。


50周年を迎えて

 スコッチグレインは、一昨年で創設50周年を迎え、新しい段階に入ったようだ。ショップでは、息子のための靴を選ぶ初老の父親が見かけられるようになった。顧客の間でも、確実に世代交代が進んでいるのだ。廣川社長とともにブランディングに心血を注いできた水野博マーケティング部部長は「これからは(お客さまに)理解させるのではなく共感してもらう時代」とし、多くの一般の見学者も受け入れている。
 ヒロカワ製靴の「メイド・イン・ジャパン」は、先代社長の「会社を大きくするな、無理をせず、ここでできるだけのことをせよ」という教えを守った結果でもあった。スコッチグレインはその名の通り、熟成させたウイスキーにも似ている。それはちょうど今、長年の眠りから覚めてグラスに注がれたばかりなのだ。

ヒロカワ製靴
東京都墨田区堤通1-12-11
TEL:03・3610・3737