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グローバル視点のマーケティング
2015年決算から、アディダスグループの将来を読み解く

レトロトレイナーブームの恩恵で好調に

アディダスグループ(本部:ドイツ・ヘルツォーゲンアウラハ/ヘルベルト・ハイナーCEO)が3月3日発表した2015年12月期連結売上高は169億1500万ユーロ(前期比16・4%増)*、純利益6億7400万ユーロ(同17・4%増)となった。為替調整後の実質成長は10%だった。
売上げが2ケタ増(為替調整前)となった地域は、西ヨーロッパ(同20%増)、北米(同24%増)、中華圏(同38%増)、中東・アフリカ(同24%増)で、業績にはユーロ安も寄与している。北米売上げは27億5300万ユーロで、為替調整後の売上増は5%に止まった。日本(同4%増)、ロシア(同33%減)は低迷している。為替調整後の日本売上げは実質マイナス成長である。
けん引力になったのは主力ブランド「アディダス」(同18%増)で、為替調整後の成長も12%の2ケタ成長だった。リーボック(同11%増)は実質6%増で、低迷していた14年から持ち直した。テイラーメイド アディダス ゴルフ(同1%減)は実質13%減と相変わらずブレーキになっている。同部門は売却のうわさが出ているが、交渉進展は報告されていない。

3ブランドで3億足を製造

アディダスは15年にグループ3ブランドで3億足のフットウエアを製造した。前年比20%近い足数増加で、過去数年の横バイから一挙に急増した。もちろん13年にスタートしたレトロトレイナーブームの恩恵を受けた供給拡大である。
拡大のけん引役はアディダス オリジナルスのレトロトレイナーモデル群で、スーパースター、スタンスミス、チュブラーのレトロトレイナートリオ、それに14年に本格登場したブーストとゼットエックスフラックス、さらに15年にスタートしたYEEZYが健闘した。いずれもアディダス オリジナルスを代表するモデルで、新開発のモデルもシルエットはすべてレトロモデルを踏襲したデザインになっている。13年からのブームに適応するために、アディダス苦心のプロダクト戦略で生まれたモデルがようやく育ってきたのである。
この中で最も販売足数が多かったのはスーパースターで、年間販売足数は1500万足を突破した。スーパースターは1986年にラン・ディーエムシーを起用した「マイ アディダス」キャンペーンでカルト的なヒットになったモデルである。11年にはキャンペーン25周年記念モデルも発売された。13年8月には、「マイ アディダス」キャンペーンの現代版「ユナイト オールオリジナルス」もスタートした。
16年はマイ アディダス キャンペーンの30周年だから、今年もプロモーションが展開されることになる。それに先行した15年の爆発的ヒットは、ファレル・ウィリアムス、リタ・オラ起用のプロモーション成功がけん引役になった。カニエ・ウエストを起用したYEEZY 750 ブーストもホットアイテムになったが、販売数量では比較にならない。
ハイファッションデザイナーとモデルをプロモーションに起用したスタンスミスも、ホットアイテムになった。しかしスタンスミスはハイフファッション分野で圧倒的な評価を得たが、スーパースターは人種、年齢、職業、地域を問わず、全方位にアピールできたという強みで爆発的な販売になった。スーパースターは今年も多くのメイクオーバーが登場し始めている。

17年以降の成長には課題も

アディダスは11年から3年間、業績が低迷してきた。15年12月期はようやく成長軌道に帰ってきたように見える。しかし史上空前のレトロトレイナーブームの中で、実質成長10%はさほど異例の成長ペースではない。ナイキは過去5年間、2ケタ増収を維持してきた。アンダーアーマーに至っては過去5年間20%を超える高成長を維持してきた。この2社に比較すれば、アディダスはようやく戦列に復帰したという段階である。
16年はUEFA ユーロ大会が6月10日〜7月10日にフランスで開催され、さらに8月5〜21日にはリオデジャネイロで夏季オリンピックが開催される。このためアディダスは16年もスポーツ用品消費の伸びが期待できると自信を示し、実質10〜12%の売上増を想定している。たしかにその通りだが、問題はその後である。
13年に始まったレトロトレイナーブームは16年にピークを越える。17年にはブームは終息に向かうだろう。これまでのアスレチックシューズブームで、5年を超えてブームが継続したケースはない。ジョギングシューズもエアロビクスシューズも、クロックスもモカシンも、全て5年でブームは終息した。アディダスが17年以降も成長路線を持続するには、多くのハードルを超えなければならない。

CEOの交代が新しい時代を拓く

アディダスが次の10年に向けて打ち出した最大の対策は、トップマネジメントの一新だった。アディダスは今年1月にヘルベルト・ハイナー(CEO)の退任を発表しており、10月にはカスパー・ローステッド(53歳)が新CEOに就任する。ローステッド は8月にアディダス 取締役に就任し、10月1日付けでヘルベルト・ハイナーからCEO職を引き継ぐ。新人事はすでに監査役会の承認を受けている。
アディダスは80年代の崩壊と90年代の迷走を経て、00年代に再生した。90年代と00年代にアディダスを救ったのはいずれもレトロトレイナーブームだった。ハイナーは01年会長に就任し、15年間にわたってアディダス再生の舵を取ってきた。ハイナーが販売戦力の育成強化に適任だったのは実績が示している。しかしプロダクトR&D、クリエイティブプロモーションでは常にナイキの後塵を拝してきた。
ナイキはマーク・パーカーによって時代を画した成長路線を確立した。ナイキiD、フライニットでも先行した。この10年間、ハイナーのアディダスがナイキに先行したクリエイティブ路線はほとんどない。ハイナーの任期は17年3月までだが、8月にローステッドが取締役に就任したら、引き継ぎ完了後の10月に会長職を退任すると発表されている。遅きに失した感はあるが、ハイナーの進退は適切な判断だった。アディダスはまもなく新しい指導者と新しい時代を迎える。

*前年同月比 in euro terms : 以下同じ