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好調企業の秘密

ニューバランスジャパン

今年からアパレルを開始、世界観を表現するために直営店も積極展開

スニーカーブームは、2012年のロンドンオリンピックをきっかけに生まれたといわれている。ニューバランスは、ここ数年特にスニーカーに強いブランドとしてビジネスを拡大してきた。成功の要因は、クラシックモデルを多く所有していたことと、ウイメンズ市場を開拓できたことによる。過去のスニーカーブームは5年でひと区切りといわれてきたが、現状をどう見ているのか。冨田智夫社長に聞いた。

女性がけん引してきたスニーカーブーム

「確かに、スニーカーブームといわれています。この2〜3年のブームのけん引役は女性でした。これまで女性はパンプスやサンダルなど多種多様な着こなしをしてきましたが、足元にスニーカーをはき、パンツだけでなくスカートとも合わせるようになりました。ただし、ウイメンズの市場は落ち着きつつあります。一方、メンズはブームとしてではなく、生活の中にスニーカーがしっかりと定着、安定した市場ができています」。
同社の顧客層を調べてみると、ブーム以前は男性が60〜70%だったのが、ピーク時には男女比が半々。それだけ女性ファンを多く取り込んだといえる。特色は若い層(10代後半から20代前半)の顧客層が増えたこと。ニューバランスはもともとウォーキングシューズで大きなシェアを持っていたが、ミドル〜シニア層ばかりでなくヤング層にまで浸透していったことは大きい。
売れたシルエットは996、574などのクラシックなものが中心だった。これらが、ライフスタイル(スニーカー)になっている。メイド・インU.S.A、メイド・インUKもやや高額だがよく売れた。だが、クラシックのニーズは1回転し、今はハイブリッドの流れが来ていて、スポーツにファッション的なトレンドを入れたシューズの動きがよくなった。では、今後ニューバランスはどうやって若いゾーンを引き留めるのか。
「新しくファンとなった10代後半から20代前半の若い女性たちは、ブームが過ぎればすぐに去ってしまいます。リピーターになってもらうには工夫をしなくてはなりません。考えているのが、クラシックモデル一辺倒でなく、新しい提案をしていくこと。もう一つがスポーツです。ヨガに行く、ジムに行く、ランニングするというさまざまな生活シーンのなかでニューバランスが選ばれるようにする。単に『カワイイ』だけではなく、女性のユーザーとの間でブランドの世界観を築くことができるようにしたい。そのために、スポーツに力を入れていきます」。
この「スポーツ」が、ニューバランス ジャパンの次なるキーワードとなる。
もともと、スニーカーブームの背景にはランニングブームがあった。ニューバランスはランニングシューズとライフスタイルを二本の柱としており、今後はランニングを含めたスポーツラインにさらに力を入れていき、「世界第三位のアスレチックブランドとなる」ことを目標としている。
ただし、スポーツ部門ではジャンルが細かく分かれる。サッカーや野球などの団体球技は、男性が多い。女性は仲間とコミュニケーションを取りつつランニングやヨガ、ジムを楽しみ、男性よりパーソナルな面が強い。ニューバランス ジャパンがこの2年間に進出したスポーツは、サッカー、野球、テニス、ゴルフなどだが、それぞれ使用するシューズは異なる。
冨田社長は「スポーツとライフスタイルの2つの柱を、明確に打ち出す」という。スポーツジャンルへの進出は、それぞれのプレイヤー自体に焦点を当てた市場への進出を意味し、マーケティングの手法も異なる。スポーツジャンルへの積極的な進出によって、ニューバランスは飛躍的にカテゴリーを広げていく考えだ。

ニューバランス ジャパンの考える4つの成長エンジン

冨田社長は、今後の成長エンジンとして次の4点をあげている。
@ スポーツジャンルを重視し、日本で影響力の強いランニングやサッカー、野球に積極的に進出
A 変化しつつあるブランドの世界観を示すため、直営店を増やしていく
B ウイメンズ、とくに新しいユーザーを確保する
C アパレルを開始、これによって@からBまでを成功させる
アパレルは今年から着手しており、ランニング,トレーニング、テニス、サッカーなどパフォーマンスウエアからスタート。まずは競技軸から打ち出していく。同時にジェンダー別に提案、各ジャンルがありながらもボーダレスに考える。
 スポーツとファッションのちょうど中間点である「ライフスタイル提案」ゾーンは、市場とショップのニーズが高い部分でもある。ここでは、機能性がありながらもファッション性も高く、日常に着られるアパレルを提案していく。
 このゾーンは、数年前から「アスレジャー(アスレティックスとレジャーを組み合わせた造語)」といわれ、東京オリンピックを前にして注目されている。昨今沈み込みがちなファッション業界から熱い視線を浴びており、すでにユナイテッドアローズのセレクトショップ「アンルート」、ジュンがナイキと組んで立ち上げた「ナージー」など、いくつかのブランドが成立している。
「アスレジャーは、ウイメンズのところで意識しています。オリンピックを控えて、スポーツシーンが盛り上がるのは必至。普通の人がスポーツをするときだけ体育会系スタイルになるとは考えにくい。そこは、メーカーが魅力的なものを伝えられるかどうかが大きいと考えています」。
ただ、日本のアスレジャーの市場はまだまだ小さい。アメリカでは休日のモールなどで、スパッツにスニーカースタイルのヤングママが多く見られるそうだが、日本ではスポーツスタイルがそこまで生活の中に入り込んでいない。まずは市場を育てるところから始めなくてはいけないようだ。
こうしたブランドとしての世界観をより強く打ち出していくために、ニューバランス  ジャパンは直営店の展開に乗り出す。現在は東京2店舗、大阪1店舗の計3店舗で、商品はシューズが中心ではあるが、アパレルにも着手したとなれば、より広く世界観を示していくべきだろう。冨田社長は、「日本以外ではブランドストアが浸透しているが、日本はホールセールが靴の販売の主流となっていて、ちょっと特殊な市場。直営店出店の目的は、売上げを上げることのみではない」とし、集客力の高い駅ビルではなく、大都市圏の「ブランドストアがあるべき立地」に出店していく計画だ。
業態は単一ではなく、東京・銀座に世界観を示す総合ショップを出したとすれば、六本木には戦略的なショップを出店するというように、ロケーションによって自在に考えていく。

日本のスポーツ人口は大きく有望な市場

さて、世界を見渡せばナイキ、アディダスの2強がグローバル市場を席巻しており、ことにナイキはすでにアディダスの倍の売上げ規模となっている。この両雄やほかのグローバルブランドをどう見るか。
「ナイキはニューバランスと同じアメリカのブランドで、イノベーションもマーケティングも優れています。しかし、日本市場ではアディダスのシェアが大きいです。ナイキはバスケットシューズに強いですが、アディダスはサッカー日本代表を持っている。日本のサッカー人口はバスケットボール人口より大きいので、アディダスはその分有利なのではないでしょうか。その点ナイキはさらにポテンシャルがあるともいえます。ニューバランスはアスレティックで3位になるという目標を掲げているので、ニッチを狙うのではなく、マスマーケットで強くなる必要があります」。
スニーカーブームは、日本、中国、韓国などアジア圏で大きかった。日本市場はアジアの中でもスポーツ競技の人口が高いのも、特徴となっている。中国や韓国は、スポーツは「観戦するもの」で、中学・高校では部活をやっていても、徴兵制などの影響もあり、見る側に回ってしまう。日本はその点、スポーツを長期にわたって続けていく人たちが多く、マーケットが大きい。ここも、ニューバランス ジャパンにとってのチャンスと見るべきだろう。
最後に、ニューバランスの最大の強みについて聞いた。
「クラフトマンシップでしょうか。アメリカのブランドは1970年代に成立したものが多いのですが、ニューバランスは1906年から。アメリカとヨーロッパに自社工場を持っていて、手工業だったころの職人の技術、ノウハウを継承しています。一方でイノベーションにも力を入れ、データに裏打ちされた商品を開発している。古きよきものをオリジンとして持ちつつ、新しいものと組み合わせていく。ここがユニークであり、強みでもあるところです」。
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長く続いたスニーカーブームがやや落ち着きかけた今、冨田社長の眼は「ブームの次」を見据えている。それが、スポーツジャンルへのさらなる躍進であり、アパレルの注力であり、世界観を表現するための直営店の展開である。それは、ナイキやアディダスと同様の、メガブランドの成立を意味するように思える。大型企業でマーケットへの影響も大きいだけに、その動きから当分目が離せそうもない。

ニューバランス ジャパン
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