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ショップ訪問 「タルタルガ」(大阪・中央区)

“甲が低く幅の細い足”専門のオーダーショップ

フェミニンなデザインの靴を一貫生産

大阪のビジネス街である淀屋橋に、11年前から店を構えているオーダーメイドの靴店「タルタルガ」がある。この可愛らしい名前はイタリア語で「亀」。「ゆっくりと着実に歩んでいければいいな、と思ってつけたんです」と、デザイナー兼オーナーである松本善博さん。大通りに面したビルの一階で、赤い扉の小ぢんまりしたファサードが目印の店だ。
ここでは、「甲の低い、幅の細い(狭い)足」の靴を主に扱うセミオーダー店。現代の女性の足が、昔よりも細く甲も低くなっている若い女性に向け、ことはご存知のことかと思うが、Dウイズはもとより、C、B、最近ではAAAウイズという方も少なくないそうだ。一般的に販売されているEやEEでは幅が広すぎて足が前に滑り、ハンマートウや外反母趾になってしまう。
百貨店などイレギュラーサイズのコーナーにある靴は、ベーシックなパンプスやウォーキングシューズが多い中、「タルタルガ」に並んでいるのは、女性らしい曲線を生かしたフェミニンなデザインばかり。ヒール高も8cm前後のものまでそろっている。大阪らしいポップなカラーコンビのものもあり、見ているだけでワワクするラインアップだ。
毎シーズンすべてのアイテムを松本さんがデザインし、サンプルを起こして自分で販売する。「作ることから売ることまで一貫して出来るのはとても楽しいですよ」と語る。
 

1万足以上の靴製作に関わってきたマエストロ

松本さんがこの業界に入ったのは、父親が大阪市内で靴店を営んでいたことがある。仕入れなどで大阪と東京を行き来し、さまざまな情報に触れるなかで「ショップオリジナルの靴を作りたい」という想いが高まる。
まだ靴の留学生など少数派の70年代、イタリア・ミラノの「アルス靴専門学校」に入学し、立体裁断などを学んで帰国。その後はさまざまな靴ブランドの企画にも携わり、これまで1万足以上の靴の製作に関わってきた。自身でデザインしたイタリア・メイドのオリジナル商品を、ショップで販売していた時期もあったという。
11年前に現在の淀屋橋へと店を移転してきた時には、自分でデザインし、社内で製作し、販売までを行うという仕組み作りを整えていた。実は松本さんも、紳士ものの既製靴が合わない細い幅の足の持ち主。松本さん自身が、靴に悩む女性たちの悩みを最もよく理解していると言える。
「幅の細い足の方は、全体の1割くらいいると言われています。一般の靴売場ではまだウイズ対応がなされていないので、合う靴がないと悩まれている方は少なくないです。工房にある木型は『B』から『AAAA』まで、サイズは20・5〜26cmまでそろえており、お客さまの足の形に応じて微調整を計りながら、ぴったりの木型をつくっていきます」。まさに40年間もの間、靴つくりを手掛けてきたマエストロの腕前だ。
店舗だけでなく、大手百貨店や都内のホテルでのオーダー会などを年数回開催しており、全国から足に悩む人が訪問する。定番品だけでなく、シーズンによって提案される松本さんの新作を楽しみにしているファンの方も多い。



イタリアにある小さな工房をイメージ

ビルの地下入口には、丸い「ラボラトリオ」の看板が掲げられ、降りてみると広々した靴づくりのアトリエが広がっている。地下ながら外光がさんさんと差し、窓の向こうに土佐堀川が流れている。
「このアトリエは、イタリアにある小さい工房をイメージしました。明るくて光が入ることと、職人さんが気持ちよく働けることが何より大切。若手職人だからこそ、新しいデザインにはチャレンジしてくれるし、自分からアイデアも出す。本当に有難い存在です」と嬉しそうに話す。
松本さんは大阪の服飾学校で教鞭を取っていることもあり、いまは教え子の女性2名と男性1名が、一階でオーダーされた靴をここで作製している。
 松本さんがデザインする靴には、いわゆるオーダー靴にありがちな“手づくりっぽさ”がほとんどない。細かな玉出し、細い靴ヒモ、フェミニンなラインなど、イタリアで培った繊細な靴作りが反映されている。顧客が試しばきのときに楽しめるように、同じデザインのものはサイズ別にコンビのカラーをすべて変えるという凝りようだ。
「違う色だとがらりとイメージが変わるということを知ってほしくて」という、松本さんの遊び心が詰まっている。単に「足に合った靴」をつくるだけでなく、その一足を通じて「はいた人自身の内なる輝き」が生まれるまでを、真摯にサポートしている松本さんだ。

◆タルタルガ
大阪市中央区北浜3-1-11平井ビル  
TEL:06-6209-0737