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接客の達人須藤教夫さん(スドウ靴店・店主)
 
「要望を表面的に受け止めるのではなく、お客さまなりの意図を確認します」

 JR高田馬場駅から徒歩約3分。東京・高田馬場のスドウ靴店は、高田馬場西商店街に1928年(昭和3年)から店を開いている。
 店主の須藤教夫さんは、2代目として「足に優しい靴選び」をテーマに、日々店頭に立っている。以前はお客の多くは地域の住民だったが、現在は通勤客や仕事などの用事で高田馬場駅を訪れる層が大半を占めるという。

毎日欠かさず変える入口のディスプレイ

 同店の「顔」ともいえるのが、入り口前のディスプレイコーナーだ。このコーナーは毎日欠かさずアップデートされている。雨の日にはレインシューズを、暑くなればサンダルをと、その日の気温や湿度を考慮しながら、催事やカレンダーも踏まえつつ、毎日こまめに手を入れている。
店の前を通り過ぎる通行人に驚きと新鮮な印象を与えるディスプレイは、「その日のお客さまの気分や心情に寄り添いたい」という須藤さんの思いの表れだ。
 そんな須藤さんの接客の第一のポイントは、お客の言葉を表面的に受け取るのではなく、真に意味するところやイメージを具体的に探ることだ。
「たとえば、『ウォーキングシューズ』といっても、お客さまによって意味するところが違う。散歩に使える靴をイメージされる方もいらっしゃれば、旅行に向いた靴、あるいはスポーツシューズとまではいかなくても1日しっかりと歩ける靴を考えている方など、さまざまです。表面的に『ウォーキングシューズ』として受け止めるのではなく、お客さまのお話をしっかりと聞いて質問を重ねたうえで、実際は何を意図しているのか、お客さまなりの定義を確認することが大事ですね」。
 

可能な限り、個々の足に快適な調整を実施

 お客の意図を把握したら、次は条件を絞っての靴の提案だ。シューフィッターの資格を持つ須藤さんは、フィッティングの際には、かかとを支点にして靴が足をしっかりとホールドしているか否か、かかとが前にずれないか、指先が動く余裕があるかなどを念入りにチェックしたうえで、個々のお客の足に合った微調整を欠かさない。
「オーダーメイドの靴ではないので、基本的には既成の靴に足を合わせるしかありませんが、ストレッチャーを使ったり、横アーチをサポートするペロティを用いることで、個々の足への対応はできます。できるだけ痛みを軽減し、快適にはいていただけるような調整を心がけています」。
 できること、できないことを明らかにしたうえで、可能な限り、それぞれの足に快適な調整を行っていく須藤さん。良心的な対応が固定客づくりにひと役買っている。
 須藤さんは靴のお手入れ方法の案内も、ていねいに行っている。売場の奥にはお手入れ製品をそろえたカウンターを設け、本底の取り換えなどリペアにも熱心だ。
「最近は、靴をていねいにメンテナンスされる方が少なくなったのは残念ですが、素材の革について説明し、それぞれに合ったお手入れ方法を紹介しています」。

自家栽培の夏みかんを店内に飾り、希望するお客にプレゼント

 現在、店頭のブランドは、フィンコンフォート、マドラス、リーカーなど、靴型がきちっとできあがっていて、足入れのバランスが良い靴が中心だ。
 派手ではないが、暖かくフレンドリーな空気に満ちた同店を象徴するのが、売場の中央にディスプレイされた夏みかんかもしれない。須藤さんの自宅で栽培している無農薬の夏みかんに、「ちょっと酸っぱいですがお好きな方はそのままで。マーマレードをつくるのも良いです」と記したカードを添えてあるコーナーは、来店客の心をほぐす効果もある。「自宅でたくさん収穫しているので、ご希望のお客さまに差しあげているんですよ」と須藤さん。
店とお客との距離を縮めたい、足に優しい靴を提供したいという店主の思いがうかがえる接客と売場演出が、同店の人気の秘密だ。


 接客のポイント
・会話を通して、お客が求める靴の定義や真の意図を具体的に探る
・できる範囲での微調整で足に優しい靴を追求する
・その日の気候などを反映したディスプレイでお客の心情に寄り添う