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日本・EUとのEPA大枠合意

皮革製品の関税は11年目で撤廃

日本とEU(欧州連合)は、7月6日にベルギー・ブリュッセルで開催された日・EU定期首脳協議でEPA(経済連携協定)の大枠合意に達した。先のTPP署名に次ぐもので、17件目の発行国(諸国)になる。
皮革関連業界にとって、EUとのビジネスは日本の輸入が主力となっているのが現状だ。この輸入ビジネスにおいて、TQ制(関税割当制)による関税が撤廃されることが大きな関心事だが、今回の大枠合意では、皮革関連品目のうち、有税211品目すべてについて、11年目または16年目に撤廃することになった。
ここでは、関税割当対象の品目である皮革と革靴については、発効時に2次税率を1次税率に下げ、11年目で税率を撤廃するというもの。これを革靴にあってはめれば、これまで1次関税、2次関税に分かれていた革靴輸入は、数量枠規制になく、すべて1次税率(現行税率17・3〜24・0%)で輸入できるようにする。さらにこの1次関税率を、10年間をかけて0にするというもの。
この対応は、皮革についても同じ。現行30%の2次関税は撤廃し、すべて1次関税(現行12・0〜16・0%)からスタートし、11年目に税率を撤廃する。
今回のEPA大枠合意では、TQ品目以外の毛皮、運動用手袋、スキー靴・革製スポーツ靴、ケミカル靴も11年目に関税が撤廃される。また、革製のかばん、ハンドバッグ、ベルトも対象品目となった。

現状の1次革靴のシェアは42%

表の通り、EPA発効国は、アジア諸国が先行していた。このため、革靴の輸入では、ASEANからの輸入の伸びが目立っていた。
2016年度の革靴の輸入実績を見ると、1次革靴の輸入は、全体では790万足あり、このうちEU28ヵ国からの輸入は334万足あった。全体の42%を占めていた。これを2次革靴を含めた革靴では、全体で2300万足の輸入があり、EUからの輸入360万足は、15%のシェアに留まる。
16年度のTQ枠の消化率が66%と低く、依然、デフレ傾向が続く日本市場で、EPA発効ですぐに輸入量の拡大が進むとは思われないが、日本市場のEU生産の皮革製品に対する関心は高い。このため今後、税率の漸減とともに、EU商品への注目はこれまで以上に高まろう。同時に、EUに新たな産地を求め、EUメーカーと組んだビジネスの誕生も予想される。


アンケート − 見直しと対策

ここで業界各社に、@今回のEUとのEPA合意について、会社の立場からどう評価するか、A今後、EUの皮革関連商品、メーカー、市場に対して、とのように対応するのか、聞いた。

岩ア幸次郎社長(リーガルコーポレーション)
ブランド価値の向上の一方、EU市場の販路開拓も

@ 世界的な自由貿易の潮流に抗うことはできないが、EUとのEPA合意は漂流するTPP以上に靴業界への影響は大きい。現在でも日本の消費者は、イタリア、フランス製の革靴などの皮革製品に対するイメージが高く、品質や価格以上の評価をしている。しかし、日本の消費者の足や嗜好を熟知している当社としては、今まで以上に顧客視点で、ブランド価値の向上を目指す。
A 一部の価格帯や商品カテゴリーについては、EUメーカーを調達先とすることもありえるが、EUを市場ととらえれば、販路開拓も当然の選択肢となる。いずれにしても、EU商品に対しては、日本国内で売場や店舗を中心とした、顧客とのタッチポイントを拡充することが、最も有効な対策となる。


山田晋右社長(大塚製靴)
EU素材を活用し、日本人の足に合う日本製品の開発を

@ EU製品の価格低下に対し、日本製品の競争力を高めるために、付加価値の高い商品開発、日本人の足入れに合うモノづくり、市場に密着した利点を生かした供給を行う必要がある。
A 高品質なEU製の素材、半製品が入手しやすくなると思われるため、それらを活用した日本製品の開発。


 清水常務(ニッピ・フジタ)
ブランド・売場を持つ問屋・メーカーへの販売を強化

@ TQ消化率66%(2016年度)の現住を鑑みて、TPP以上に本当の意味での自由化推進。イタリアからの現状、約200万足(313億円)の輸入実績が、EPA合意以降どう影響するのか?
A メイド・イン・ジャパンにこだわったブランド・品質・売場を所持した問屋・メーカーへのさらなる販売を強化する。


 相川泰弘社長(相川商事)
皮革専業商社として、日・伊双方で活動を開始

@ EPAが結ばれるということは、すでに周知の事実と理解している。国内マーケットは間違いなく縮小しており、その中だけで生きていくか、外に出ていくかを検討せざるを得ないのが、紛れもない事実と考えている。
弊社はヨーロッパ仕入先とのパイプ強化をすでに進めており、国内製革にも力を入れ、積極的に介入している状況である。よって、今回の合意に関しては「賛成」だ。
A 弊社はイタリア駐在員事務所を構えており、日・伊双方で積極的に活動を開始する予定。内容については、現在進行形の事案を含め、公開することはできないが、皮革専業商社として、視野を広げて活動内容を検討している。


 遠藤道雄社長(バン産商)
材料入手のメリットを生かし、国内外で生産する

@ 今回のEUとのEPA合意が、エポックメイキングなことだとは思えない。30年前ならいざ知らず、日本の業界全体が弱くなってしまった中では、タイミングがツーレイト、遅すぎます。
TQ制を導入しても、結局何も得るものはなく、タンナー、メーカーなど業界は弱くなってしまいました。今後、10年間をかけて関税率を無くすということですが、世界の流れはそんなのんびりとしたものとは思えない。一般顧客にとっては、撤廃は早いほどよい。
A 業界にとってのメリットは、材料である革が自由に手に入ることです。この質のよい材料を使って、国内外のメーカーと商品化を進め、顧客に喜ばれるシューズを届けることが使命。
今後は海外の力のある企業の、日本市場への参入が増えるだろう。われわれも守りから、攻めの経営が求められる時代に入る。


 横瀬秀明社長(ジー・エム・ティー)
内外価格差を縮小し、市場拡大が期待できる

@ とても良いと考える。日本のマーケットでEUの靴がより身近なものになる。また、マスマーケットの拡大が期待できる。
A 内外価格差を縮小していく、販売サービスを世界共通のものとする、顧客情報を共有化する。


 深田惠一社長(ワールド・マリーン)
ジャパン・クオリティーで、「攻め」に助力したい

@ 日本のマーケットも、やっと世界のマーケットとイーブンになれる。真にフェアな市場を目指せる。ブランド力、品質に対して価値とは何なのか。価格だけで選択されるのではない。成熟社会だからこそ、価値を発信するチャンス到来。
A EU市場に対して、メイド・イン・ジャパンのクオリティーの高いシューズを輸出するプラットフォームを構築し、守るだけでなく、打って出る「攻め」に助力したい。