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東京都立皮革技術センター台東支所は9月15日、野村義宏東京農工大教授を講師に招き、平成29年度第5回皮革関連ゼミナールを開催した。今回のテーマは「皮革とコラーゲン」で、皮革の主要成分であるコラーゲンの利用について解説した。

●食品や化粧品でも注目される

コラーゲンは皮革の主構成成分であり、さまざまな分野で利用されている。近年、コラーゲンの変性物であるゼラチンや加水分解コラーゲンは、機能性食品や化粧品用途での利用が注目されている。
コラーゲンはタンパク質の一種で、アミノ酸の塊でできた線が何本も束なったものである。電子顕微鏡で観察すると太い線や細い線、またコラーゲン線維同士の空間に細胞やヒアルロン酸が存在し、その状態を観察することができる。
コラーゲンという言葉は、膠(にかわ)の元という意味から来ている。コラーゲンは熱変性するとゼラチンになる。
歴史的にゼラチンは、工業用の接着剤として使われた膠がはじめだ。バイオリンや木管楽器などにも使われている。ゼラチンとして、身近なものに煮こごりがある。タンパク性の食べ物を食べると、必ずゼラチンやコラーゲンを摂取することになる。
ゼラチンと膠(にかわ)では製造方法が異なる。ゼリー強度に大きな違いがあり、ゼラチンは透明度が高いが、ニカワは透明度が低いという特徴がある。


●革の製造工程に深くかかわる

私の研究施設名である「硬蛋白質利用研究施設」にある硬蛋白質とは、皮、爪、髪の毛といった通常の加熱をしただけでは溶けないようなタンパク質の総称で、動物であれば必ず持っている。この主要成分がコラーゲンだ。革の製造工程にも、コラーゲンが深くかかわる。革製造の主な作業は脱毛、石灰漬け、ピックリングだ。
原皮を塩蔵するのは腐敗防止が目的だが、これは浸透圧の原理を利用して、水を外に排出するため。また、風を送るのは嫌気性細菌の増殖を防ぐ目的がある。石灰は脱毛のためで、皮をアルカリ性にすることにより膨潤させ、毛穴を大きくしている。フレッシングでは物理的に脂肪を除去しているが、石灰に漬けることで脂肪を除く役割もある。
クロムは酸性下が使いやすいため、ピックリングを行う。特にギ酸はpH的にちょうど良い。酸を入れることにより、コラーゲンを膨らませて隙間をあけている。その隙間にイオン化したクロムがコラーゲン線維間に架橋が入りやすくするのが、ピックリングの目的である。

●クロム鞣しとタンニン鞣し

クロムはタンパク質との親和性が良い。クロムはアルカリ側に寄ると沈殿してしまうが、酸性側では溶液の状態を保っていられる。特に色の反応を見ながら確認できるため、濃くしたり薄くしたりの調整がしやすく、工場生産に向いている。また、色素が入りやすく、バリエーションのある革がつくりやすい。
ただ、クロムは六価クロムのイメージが強すぎるのが問題。三価だと安全だが、熱が加わるとpHが変わるため六価に変わりやすい。ただ、これには六価に変わるのを抑えるマスキング剤を使えば問題は解決する。
革から出て行かなければ六価クロムがあっても良い、と私は考えている。ただ、クロムに関する研究は1970年代以降、進んでいないのが現実で、この考えは科学的に証明されていない。
植物タンニンの鞣し剤は、さまざまな種類がある。世間では植物タンニンが安全と言われているが、実はそうでもない。ベンゼン環ベースで考えると、ベンゾピレンやコールタールといった発がん性物質と近い形になってしまう場合もある。鞣し剤を入れていかに腐敗させないかが重要。それは革も同じで、特に植物タンニンを使う場合は、コラーゲンとの架橋がつくりにくく、皮の内部まで浸透させるため物理的な負荷が必要になる。

●肌に良く、認知症防止にも効果

コラーゲンは動物にのみ存在し、植物由来や細菌由来といったものは無い。全タンパク質の3分の1がコラーゲンで、皮膚、骨、腱、内臓、筋肉、角膜などの身体のいたるところに存在している。
コラーゲンには必須アミノ酸がかけているので、タンパク質源をコラーゲンにした場合、食べても栄養にならないと言われている。実際に、動物にコラーゲンだけと、牛乳の有力タンパク質であるカゼインだけを食べさせた実験では、コラーゲンだけ食べた動物は痩せてしまう。
コラーゲンの良さの一つは、食べると肌にも良いこと。紫外線としわの関係についてもコラーゲンの摂取は良い効果があることが報告されている。紫外線を浴びると角層の破壊と上皮が肥厚するため、シワが深くなる。
コラーゲンを食べると、吸収されたコラーゲン由来の特別なペプチドが身体の細胞に作用し、皮膚の炎症の抑制と水分量を改善することから、上皮が厚くなるのが抑えられる。また、卵巣を摘出して骨粗鬆症を誘導した動物にコラーゲンを投与すると、骨密度が上がるという結果も出てきている。すなわち、コラーゲンを食べると皮膚や骨にも良い影響を与える可能性があることが報告されている。
また、別の研究では、コラーゲンを食べて血中に認められるジペプチドが環状構造を示し、それが細胞を刺激して認知症予防に役立っているのではないかという報告もある。