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スペシャリスト カラリスト/三橋弘明さん

深い知識と軽妙なトークで、シューケアを楽しく啓発

靴の販売職から転じ靴の"カラリスト"に

 三橋弘明さんはコロンブスに入社して7年目、シューケアだけでなく補修やカラーリングなど、靴に関する幅広い仕事をしている。週2回、百貨店内で磨きやシューケア用品の販売に従事するほか、かなりの頻度で取引先の研修会や店頭イベント、ワークショップを行っている。
 三橋さん学校を卒業した後に婦人靴専門店に入社した。やがて紳士靴の販売に転じる。 コロンブスに入社したのは、店頭でずっとシューケアに触れていたからだった。靴の販売員時代、先輩たちはシューケアの方法は教えてくれたが、「皮はなぜ革になるのか」「どうしてケアをしなくてはならないのか」といった基本的な疑問に、誰も答えてくれなかった。そういうことに答えられる人間になりたいという気持ちもあった。
「コロンブスでは、不明なことは松戸にある研究担当部署であるラボなどに連絡して、ズバリと聞くようにしています。また、自分の靴や不用になったお客さまの靴で練習を積みました。革を染める場合、失敗しては取り返しがつきません。失敗している余裕なんかないと、日々研究を重ねました。勉強は今も続いています」。

短時間で方針を決め、すぐに取り掛かる

 コロンブス入社後、三橋さんが補修・カラーリングで扱った靴は約1000足。持ち込まれる靴は、傷の補修や革の染め変えなどさまざまで、それぞれ状況が異なる。短時間で補修の方針を決めて、すぐにとりかかる。傷の深さで何を使うかが決まるし、染め変えるときは、生かす色と殺す色が決まってくる。例えば、赤茶の靴をブラウンにするには赤色を殺して緑色をさす。染料を使うので、失敗はできない。一回一回が真剣勝負である。
 そんな三橋さんを際立たせるのは、深い知識と軽妙なトークだ。目の前でお手入れをしつつ、相手に合わせてトークを展開する様子は、まさに接客と同じ。「靴みがきはよくわからない」という人には手順を説明し、疑問点にお答えする。お伝えする基本的な注意点は、革が濡れている状態でこすらない、クリームを入れるときの力の入れぐあいが大切、続けて同じ靴は履かない、の3ポイントだという。
「お手入れすれば革がよくなると思っている人もいますが、革はもともと死んでいるもので、劣化を止めるのがメンテナンスの基本です。革は動物が残してくれた最後の大切なもの。ケアをして、長く使ってほしいと思います」。
 高級靴をはく紳士にはブランドの話を、お手入れが好きな人には細部にわたって説明をと、三橋さんの話の引き出しはたくさんある。楽しいトークと豊富な知識が、接客時の大きな説得力に。

ブラッシングでのホコリ落としが基本

 プロが勧めるお手入れのポイントを聞いてみた。
まず、基本はブラッシング。ブラッシングでホコリ、汚れを落として、乾燥させないようにすることが先決。靴にホコリが残っていると潤いを奪ってしまい、油分抜けの要因の一つになるためだ。革が必要な脂分は決まっているので、シューケアは1ヵ月に1〜2回で十分。このときには、汚れ落としで余分なワックスを取り、シュークリームを奥までしっかりと入れる。新しい靴は足になじませるためにまめにお手入れした方がよい。
 流行のスニーカーは、水を使わなくても洗えるシャンプーも発売されているおり、汚れがついたらまめにお手入れを。キレイに履くことがおしゃれのトレンドになっていることにも気づいてほしい。
白いレザースニーカーには、汚れ落としと補色を同時にできる専用品もある。しかし、汚れやすいものは撥水スプレーをかけるなど、事前の対策を考えた方がいい。スエードは雨でシミになりやすいが、これは繊維がむき出しになっているから。修正はできるが、まずは撥水スプレーで防止したほうが簡単だ。
 今、三橋さんが取り組んでいるのが、後進の育成である。
 「コロンブスのスタッフは店頭にいます。困ったときに頼ってほしいですね。商品を使いこなしつつ、販売スタッフならではの提案をしていく。今後、シューケアコーナーに行くことが、来店のきっかけになればいいと思っています」。
 「困ったときに頼られる」人材を育て、シューケアを通してお客とショップの架け橋になることが、三橋さんの描く将来像だ。

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