今月の記事・ピックアップ 2018・12
 HOME > フットウエアプレス >SPECIALIST 長谷川 裕也さん (ブリフトアッシュ)
SPECIALIST 長谷川 裕也さん (ブリフトアッシュ)

日本の靴磨きのパイオニアとして活躍

靴磨きの地位向上のため青山に店舗を構える

 長谷川裕也さんは、東京駅の路上靴磨きから身を起こした。アルバイトをしていたが「何とかしたい」と、友人を誘って靴磨きを始めた。最初の道具は、100円ショップで買った靴磨きセット。その後、ファッションショップでの販売の仕事と靴磨きを両立させるかたわら、靴磨き.comというサイトを立ち上げ、ブログを書いてファンを増やしていった。
 最初は知識もなく、下手だといわれたこともあったが、ほかの靴磨き職人の技を盗み、ファッション雑誌の靴特集も読みあさった。都立皮革センターでも学び、古い靴を使っていろいろな技を試した。しかし、3年後の2007年に転機が訪れる。品川駅では時々警察に注意されていたのだが、ついに鉄道警察が乗り出してきて、「告訴する」といわれたのである。
「かねがね、日本の足元に革命を、というテーマでやってきました。それならお店を出そう、靴磨きの価値を高めようと思い、青山にお店を持つことにしたのです。路上で靴磨きをしていると、やっていることはすばらしいのに低く見られる。それを見返す意味もあって、住所を青山にしたかったんです」。

1足1時間をかけてていねいに仕上げる

 東京・青山の骨董通りにある「ブリフトアッシュ」の店舗は、ちょっとした隠れ家のような存在だ。どっしりとしたカウンターと時代の艶を感じさせる棚や椅子、床材が落ち着いた雰囲気を感じさせる。長谷川さんは毎日びしっとスーツを着用し、カウンターの中に立つ。カウンター内に立ってお客と対話しながら靴磨きをするのも、長谷川さんが開拓したスタイルだ。お客は9割以上が男性で、当日磨きが4000円、靴の引き取り3日以降が3300円、1週間以降が2900円と安くはない。
 その分手間をかけ、1足1時間ほどかけてていねいに磨く。靴の中を全部拭いて、コバをヤスリで削り、表面を平らにしてからインクを入れる。クリーナーで汚れを落とし、革を見極めつつ靴クリームを落としていき、磨き上げる。7人のスタッフで、月に600〜700足の靴を磨く。修理も受け付けていて、こちらは提携している修理職人の元に送られる。
 「クリーナーもクリームも、当社オリジナルで化粧品会社と3年間かけて共同開発したものです。クリームには、ホホバオイル、ヒアルロン酸、シアバターなど28種類の成分をブレンド。人の肌につけるものと同じ成分を使っています。靴にとっての栄養はクリームのみですから、いいものをあげたいですよね。最初は市販のクリームを使っていたのですが、もっとこのほうがいいという気持ちが強くなったのです」。
 開発されたシューケア用品は店頭でも販売されており、収入の大きな柱となっている。
 長谷川さんに、初心者が心がけるべきシューケアのポイントを聞いてみた。
 「基本は、日々ブラッシングをすることですね。その日の汚れはその日のうちに取ること。特に大切なのはシューツリーで、入れないと型くずれしてしまいます。当日は入れずに湿気を飛ばし、次の日の朝には入れておく。それに、1日履いたら2日休ませることが基本で、毎日履いてはいけません。靴磨きの意味は栄養補給なので、無色のクリームを塗って拭き取るだけでもだいぶ違います」。

今後の10年で靴磨きを広める

 長谷川さんは多忙である。店舗が開くのは午後からだが、それまでに預かった靴を磨いたり、ミーティングや取材対応は午前中に行う。百貨店やラグジュアリーブランドの店舗での靴やバッグのお手入れイベントにも、スタッフが交代で対応する。長谷川さんの名前がメジャーになったのは2017年にロンドンで開かれた靴磨きの世界大会で優勝したことにもより、テレビからの取材依頼も増えてきた。
 これまであまりテレビに露出しなかった長谷川さんだが、来年から徐々に取材を受けていくという。「お店を持って最初の10年は職人の地位を高めることに専念する、次の10年は靴磨きを広める」ことを決めていたからだ。最初の10年が過ぎた今、長谷川さんは行動を起こそうとしている。
 まず、駅ナカにクイックの靴磨きスタンド「ブリフトスタンド」を出店する。10分1000円、20分2000円の手頃な値段で、さっと磨ける。品川駅と神田駅に期間限定で開き、好評だったため、来年から常設店とすることにした。
もう一つが障害者への就労支援として、靴磨きを教えるプロジェクトだ。出身地の千葉・木更津市で支援団体と組み、現在は責任者がお店に来て1ヵ月研修している。プロジェクトは来年からスタートする計画だ。
 長谷川さんは、2冊の本を出している。その一冊が『自分が変わる靴磨きの習慣』で、「磨き上げた靴を履くことによって、身だしなみに気を遣うようになり、自己管理でき、歩き方も変わるようになる」というもの。靴磨きは自分自身と人生を変える第一歩で、大切にすべき習慣なのだ。日本の靴みがきのパイオニアである長谷川さんは、これからもそのことを広く訴えかけていく。

東京都港区南青山6−3−11 PAN南青山204
TEL:03−3797−0373