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イタリア植物タンニンなめし革協会 セミナー&イベント 「WELCOM TO 2050」


 5月18日、東京・千代田区のイタリア文化会館にて、「トスカーナ産 イタリア植物タンニンなめし革協会WELCOM TO 2050」のイベントが行われた。日本での同協会によるイベントは毎年行われていたが、コロナ禍のため、対面で行われるのは4年ぶりとなる。
1階ホールには、ヨーロッパ各地にあるファッションスクールの学生たちが、トスカーナの植物タンニンなめし革を使って製作した作品が展示された。
壁面に大きく掲げられたロゴには、「2050」と「1282」の数字が重ねられている。1282年は、植物タンニンなめし革がさかんに生産されていたトスカーナ地方の中心地、フィレンツェでギルドが成立した年である。一方2050年は、EUの「欧州グリーンディール」政策が、温室効果ガス排出をゼロにする「気候中立」を達成することを目標にしている年である。
この2つの年を重ね、トスカーナの植物タンニンなめし革がはるかな昔から、グリーンディールにつながる道を歩んでいることをアピールしている。
催しには、トスカーナの19のタンナ―が参加した。



 セミナー 植物タンニンなめし革は天然バイオベース素材 


 イベントの中心となる今回のセミナーでは、材料科学の分野で国際的に著名なグスターヴォ・アドリアン・デフェオ博士が登壇した。
デフェオ博士は、考古学的発掘物の年代測定に用いられる分析を用いて、物質中の放射性炭素を測定することに成功している。革、繊維、プラスチック、化学製品など、ファッションの世界で用いられるさまざまな素材に含まれるバイオマス由来の炭素含有量に目を向け、持続可能性を定義している。内容の要約は以下の通り。

炭素14の測定値で、バイオベースか否かを知る

 当協会からの質問に答えるには、まず「天然バイオベース素材」の重要性を知らなくてはなりません。「天然バイオベース素材」とは、革やその代替素材を指しますが、その前に合成素材を考えてみましょう。
 石油由来の合成素材は、数百万年前の天然有機物からできています。しかし、石油由来のプラスチック素材の多くは、徐々にマイクロプラスチックやナノプラスチックに変化し、環境に深刻な影響を与えることになります。
これに対し、バイオマス由来の原料を使用することで大気中のCO2削減に貢献し、バイオベース素材を使用することで、カーボンニュートラルと循環性を実現することができます。
 数字的なデータを見てみましょう。
プラスチック廃棄物の発生量は年間3億トンにものぼり、リサイクルされるのはわずか9%、12%が焼却され、残りの79%が埋立地に蓄積されていきます(出典・国連)。
 マイクロプラスチックが腸に入ると、腸内フローラの乱れを引き起こし、肝臓では脂質の代謝異常や酸化ストレスの原因ともなりかねません。さらにナノプラスチックになれば、血液脳関門に浸透するという恐ろしい事態もあり得ます。
 100%バイオベース素材であれば、商品のライフサイクルが終わって焼却されれば、CO2とO2の排出バランスは同じになるはずです。そこで、生物由来のCO2と化石炭素のCO2の判別は可能か、考えてみました
 宇宙線が成層圏で窒素と反応することによって、炭素14(14C)が作られます。これにO2が加わって14CO2になります。これを植物が取り込むことによって、植物を食べる動物にも吸収されます。
炭素14の半減期は5730年です。炭素14を測定することによって、古いものかどうか判別できるわけです。バイオマスから炭素14を測定することができるのが、SCAR(飽和吸収キャビリティダウン)分光法です。これを使えば、素材のバイオベース炭素の含有量がわかります。




「バイオ由来成分」でない「ヴィーガン」素材

 「グリーンウォッシュ」という言葉があります。「エコである」「環境に配慮している」というが、実はそうではないという意味です。「ヴィーガン」「植物由来」と称される素材の多くが「バイオ由来成分」であることをアピールしていますが、実際には化石由来成分が多いことがわかります。
 例えば「アップルレザー」を使った靴では、74%が石油由来の成分でした。高級車のシートに使われる「カクタスレザー」は、サボテンを使ったものですが、76%が石油由来の成分でした。植物ベースの高級素材とされる「ウルトラファブリックス」でも、バイオベース炭素は28%だけでした。
 トスカーナ産植物タンニンなめし革のバイオベース炭素の含有量も測定してみました。協会加盟のタンナ―によって生産された19のサンプルを分析してみたところ、いずれもバイオベース炭素含有量80%(グリーンディール2050年目標)を大きく上回っていました。


バイオ由来の数値をマネキン演出で見せる

1階のディスプレイ会場には、手にそれぞれバッグを持った数体のマネキンが並び、足元には「ヴィーガンレザー」「バイオ由来20〜40%」などの表示が。その%によって、マネキンの体が植物に覆われていくという演出だ。「植物タンニンなめし革」「バイオ由来80〜100%」の表示と、全身植物で覆われたマネキンが登場する。デフェオ博士のセミナーを拝聴したのちだけに、興味深い演出だ。
 協会側では日常使う素材のチェックができるサイトも用意しており、QRコードから簡単にアクセスすることができる。




 インタビュー 「日本市場はトスカーナのタンニンなめし革を高評価」 

バラバラ・マンヌッチ氏 (イタリア植物タンニンなめし革協会・プロモーション活動責任者)



――イタリア植物タンニンなめし革協会の日本でのプロモーション活動は
マンヌッチ氏 日本では2000年から毎年セミナーを開催しています。セミナーはアメリカやヨーロッパ、韓国などでもオーガナイズしていますが、日本のように定期的に行っている国はほかにありません。日本は、トスカーナのタンニンなめし革を非常に評価してもらっており、私たちにとって特別な市場です。毎年、新しいことを紹介したいと思っています。

――そのほかに行っているイベントは
マンヌッチ氏 定期的に行っているのが「クラフトレザー」の催しです。ヨーロッパやアジアのファッションスクールの生徒たちに、1週間トスカーナに滞在してもらい、実際にタンニンなめしの工程を見学、工房を使って作品を作ってもらいます。次の業界を担う人たちに、トスカーナのタンニンなめし革の特性を知ってほしいのです。今会場にも、クラフトレザーの優秀作品を展示しています。

――日本からの参加は
マンヌッチ氏 昨年はコロナ禍のため、欧米の学生だけでしたが、今後は日本からも参加を募る予定です。以前、文化服装学院やヒコ・みづのジュエリーカレッジの学生たちが参加したこともあります。今年は6月に行う予定で、学生向けのセミナーも実施していきます。

――日本市場で、イベント開催の成果は
マンヌッチ氏 我々のモノづくりの精神からすれば、日本のメーカーのアプローチに親近感が持てます。長く取り組んでいる中で、さまざまな努力をしてきましたが、日本市場の関心がずっとあり続けたことを実感しています。