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特集 指名客をつくるプレミアム接客

 そごう横浜店

正解のない靴選びでは、90分接客しても無理強いしません

足に合う靴の快適さを知り靴の販売にこだわっています

 そごう横浜店の國井千秋さん(現フロアマネジメント部 販売員運営担当 上級シューフィッター 幼児こども専門シューフィッター)は、2015年に入社した。配属先はこども靴。
 「最初は大変でしたね。それまで靴に縁はなかったし、子供には泣かれるし。でも、子供の成長にとって靴がいかに大切かを痛感し、考えが変わりました。17年に社内資格であるシューアドバイザーを取得、その後FHAのプライマリーと幼児こども専門シューフィッターを続けて取得しました」。
 靴の大切さ、販売の面白さを知った國井さんだったが、なぜか婦人服売場に異動となってしまった。「どうしても靴の販売や勉強をしたい」という思いが強く、時間のあるときに、ビスポークの靴づくりを見学したり、街の靴店をのぞいたりと「何かしら靴に関わること」を続けていた。再び靴の販売に戻ることができたのは、1年後の21年になってから。そして24年春、上位資格の「バチェラーオブシューフィッティング」を取得する。
國井さんにそこまでさせた靴の魅力とは何だったのだろう。
 「自分自身、足が痛いのなんて当たり前だと思っていたのです。靴なんてこんなもんだ、靴擦れができるのも普通のことだ、と。ですが、勉強して一気に覆りましたね。足に合った靴を履けば、こんなに快適なのだ、早く知っていればもっと健康にもなったはずだったと思いました。足のサイズを測ることもなかった。相談する場所があることも知らなかった。まさに、目から鱗でした」。
 

接客は計測し、見て、触れることから始めています

 國井さんの接客は、必ず計測からスタートする。素足になってもらって、状態を見て触れる。足にさわることで、温度・質感・トラブルの状態などいろいろな情報がわかる。歩行や履いてきた靴のようすもしっかりチェックする。たとえばタイミングがずれていれば脚長差があるのかもしれないし、靴底のすり減り方から歩き方を想像することもできる。
 「お客さまのおっしゃることを飲み込んだ上で、『こちらをお勧めします、なぜならこのような理由だからです』と申し上げます。足の骨格模型を実際に靴のなかに入れてビジュアルを見せて説明すると、けっこうインパクトがあります」。
  ただ、実際の接客時間は90分と制限されている。そごう横浜店ではシューフィッターの予約を取ることができるが、その1枠が90分なのである。そのため、フットプリントをとって検討し、細かく説明している時間はない。「ヒール高5センチの黒いパンプス」などとニーズを伺って足を手計測し、足に合いそうなものを5~6足ぱっと持って行く。そのうちお好みがあれば、それに類する靴をさらに5~6点お持ちする。
國井さんは、無理にお勧めすることをしない。「そのときに購入に至らなくても、私の名刺をもって絶対に戻ってきてくれる」と信じているからだ。そして実際、多くの人が再び國井さんの予約を取っている。
 「再度予約を入れていただけると嬉しいですね。接客はお客さまと1対1。私の接客が正しかったかどうかがわかるわけです。靴選びに正解はありません」。


転んでばかりいる子が駆けっこで一番になりました

 國井さんは15年から20年まで約5年間子供靴売場にいたが、このときに忘れられない経験をした。
 「よく自分の足を踏んで転ぶお子さまがいました。でも幼稚園の最後の運動会でビリになりたくない。見てみると、靴が大きくてきちんと履けていなかったのです。そこで、何回もいっしょに靴の履き方の勉強をしました。『かかとトントン』『面ファスナーをぎゅっと締める』などの練習です。最後に、『お友達は知らないからね、かけっこ一番になれるよ、ほかの子には内緒だよ』と、魔法の言葉を教えました。
 後日、お母さまがお子さまの手紙を届けてくださり、お子さんは、転ばなかっただけでなく1等になり、自信がついて積極的になったと聞いて、思わず涙が出ました」。
 そのとき、着目したのが靴下の重要性だった。きつい靴下だと趾が伸びず、うまく使うことができない。靴下と靴の関係性は深い。靴下をより深く知るため、秋には「靴下ソムリエ資格認定試験」を受けることにしている。

神奈川県横浜市西区高島2-18―1
TEL:045・465・5155





 ビースリーラボ 静岡セノバ店

革の面白さと安心感を得られるよう全員女性で接客しています

革のエイジング変化を見せ購入後を想像してもらいます

「革を、もっと身近に。」をキャッチフレーズに、エイジングする革を中心に革小物やバッグ、ベルトなどをラインアップした「ビースリーラボ」。関東エリアの出店が多いなかで、唯一東海地区にある「静岡セノバ店」。静岡鉄道・清水線の新静岡駅のセノバビル4Fに位置しており、開業から11年目を数える。
すべてが地元出身の女性スタッフ、というこの店を束ねるのは、笑顔の魅力的な店長・曽根純奈さん。ファッション品とは異なり、定番の多いレザーアイテムを、いかにシーズン性や新鮮さを出すかが難しいとのこと。手に取りやすく、見やすい売場づくりに定評がある。
「もともと私の親がレザー好きで、幼いころから革製品に触れる機会が多かったように思います。ここは駅ビルという性質上、20~50代と幅広いお客さまに足を運んでいただくので、どの世代の方にも革の面白さと安心感をもってもらえるよう心がけています。〝売る〟ではなく〝寄り添う〟というイメージで接しています」と曽根店長は話す。
男性客が6、7割を占め、特に若い世代にとっては、革製品を初めて購入するというケースが少なくない。そのため、緊張せずリラックスして選んでもらえるよう、エイジング変化した革のサンプルを見せ、レザーケアの仕方を丁寧に伝えるなど、〝購入した後〟が想像できるように接客している。


革に関心を持ってもらえるショップを目指します

ビースリーラボならではのサービスも注目したい。各店舗にはレジ裏に小さな工房が設置されており、購入したアイテムに手打ち刻印サービスや、ハトメ、ホック、カシメなどを打つことも可能だ。
例えば、いまヒットしている「トラッカーウォレット ミニ財布」には、ハトメ穴を開けてリングを通しことや、ショルダー紐を付けるなど、自分らしい使い方にカスタマイズできる。
「一度ご自身用に購入された方が、ギフトとしてまた戻っていただけるなど、最近特に人気のあるアイテムに対しては、他にはないプラスアルファのサービスが、ファンを生むきっかけになっていると思います」。
店頭には「財布の人気ランキング」を表示したPOPを添えて、他の人も持っているという〝安心感〟を演出する工夫もしている。男性向けのギフトや、ファースト革財布を選ぶ方などに好評だ。
「気になるけど使ってみたいという方にとっては、革製品の入り口になるショップだと思っています。そのために、買ったあとも『良かったな』と思っていただけるような、寄り添う心が必要だと考えています。ひとりでも多くの方に、タンニン鞣しレザーの面白さを伝えていきたいです」と曽根さんは笑顔で語る。

静岡県静岡市葵区鷹匠1-1-1新静岡セノバビル4F TEL:054-266-7462